11-7 打てない先手と、広がる波紋
次の日、朝から薬草採取。
昨日の話を思い出して、
採取しながらイメージトレーニングする。
こう来たらこう。
こう来たらこう。
(だめだ、相手待ちのイメージになっちゃう)
どうしても、自分が先手を取る様子が思い描けない。
――
小学生の頃、出会ったばかりのタイチとタダシ。
外に遊びに出ないタダシにせめて、何かスポーツをと母親が連れてきた。
偶然だった。
同じクラスのタダシが、道場に通うようになった。
子どもの頃から始めていたタイチには敵わなかったが、
それでも通い続け、基礎的な事は出来るようになっていた。
ある日の稽古で、
「タダシ、お前もだいぶ様になってきたな」
じいちゃんがそう言うのを、タイチは道場の隅で聞いていた。
タダシは照れくさそうに、それでも嬉しそうにしていた。
自分の方がちゃんと出来ているのに、
後から始めたタダシが褒められている。
なんでだろう、と思う。
悔しいとか、そういうのとも少し違う。
ただ、なんとなく面白くない。
「じゃあ最後に、二人で軽く組み手やってみるか」
じいちゃんの声で、タダシと向かい合う。
いつもと同じ、ただの練習のはずだった。
でも、今日は少しだけ、
いいところを見せたいと言う気持ちが強く、
いつもより力が入っていた。
先手でえり首を掴もうと、手を伸ばす。
掴めない。
もう一度、手を伸ばす。
やはり、避けられる。
さらにもう一度。
なぜか、掴めない。
ムキになって、無理に掴みに行こうとした瞬間、
手がタダシの顔に当たってしまう。
飛んでいくメガネ。
目を押さえて、うずくまったタダシの足元に赤い血が数滴落ちている。
道場の畳の上に散らばるガラス片。
何が起きたか分からなかった。
じいちゃんがすぐにタオルを持って走ってくる。
割れたレンズの破片が目の上をかすったらしい。
病院に付き添って、廊下で待つ。
連絡を受けたタダシの母ちゃんが病院にきた。
じいちゃんがずっと謝っていた。
幸い、瞼の上を少し切っただけの軽い怪我だった。
タダシの母ちゃんは、
今まで怪我するようなことをしてこなかったから、
逆に名誉の負傷だと言っていた。
誰も咎めなかった、
誰も怒らなかった。
病院からの帰り道。
じいちゃんは、ラーメンを奢ってくれた。
その時に、
不慮の事故と言うのはどうしてもある。
だが、自分の腕に慢心していなければ、
起きなかった事故かもしれない。
相手の動きの先を読めば、メガネに当たらなかったかもしれない。
これは、誰にも分からない事だが、
と言っていた。
じいちゃんは言わなかったが、
いいところを見せようとした自分を見透かされている気がした。
それ以来、自分から先手を取ることをやめた。
自分の腕が未熟なうちは先手を取らない。
そう決めた。
それ以降も、タダシは毎日道場に来た。
それだけが唯一の救いだった。
――
気づけば薬草は一杯になって魔法籠から溢れていた。
溢れた分をアイテムボックスに入れて、
昼飯の屋台のくる広場に戻った。
「飯だぞー昼飯だぞー」
屋台の馬車が来た。
「お、今日も早いな名人、終わったのか?」
「はい、終わりました」
「さすがだな」
「今日の昼飯はなんですか?」
「今日はベーコンと炒り卵、パン、それとトゥンジルだな」
「じゃあ、それで」
「名人パンにするかい?」
「名人パンで」
「銀貨三枚と銅貨六枚だな」
「あれ、」
いつもより高くなっている。
その反応に、男が言う。
「最近、北の国が不穏でよ」
「なんか食材がべらぼうに高くなってて、値上げしたんだよ」
「北の国ってケサモッサですか?」
「あー違う違う、あっちの北じゃなくてこっちの北の話」
男はあっちこっちと指差しながら説明する。
(最初に差した方にケサモッサがあるのかな)
「そんでよ、値段を上げることにしたんだがよ」
「お値段据え置きで、量を減らすってのと迷ってんだよ」
「うーん、どっちも微妙ですね」
「そうなんだよ」
「おかずとパンっていつも別ですよね」
「街で売る時みたいに名人パンにしたら」
「手間がかからないんじゃないですか?」
「そこにスープもセットで付けたら、お得感が出ません?」
「そうか、街では名人パンで売ってるし、他店と差をつけるためにスープを付けてたが」
「名人パンだけに絞るのもアリだな」
「それにスープ付きセットだけ売れば、高くなったとか量が減ったとか思いにくいな」
そう言いながら、
「それでもうちは原価ギリギリでやってるから儲けはあんまり出ないんだがな」
付け加えて笑う。
しばらくして薬草採取のおっさん達も集まってくる。
「いつものくれ、スープ付きでな」
「あいよ、銀貨三枚と銅貨六枚だ」
「なんだ値上げか?」
「悪いな、食材の値が上がっちまってな」
「嫁もおんなじ事言ってたな」
「やめとくかい?」
「いや、貰うよ、ここんとこ採取の調子が良くてな」
そしてタイチの方を見ながら胸元の絵札をチラリと見せる。
「こいつのおかげか採取量増えて収入も少し増えてるからな」
とニヤリと笑う。
「俺もだぜ、名人の絵札持ってから調子いいんだよな」
後ろの男も、絵札を見せて笑う。
「さすが人類史上最大の奇跡」
(やめて、恥ずかしい)
おっさん達と賑やかな昼食をとり、
屋台の男に乗せてもらって王都に戻る。
ギルドに入ると、少しだけ慌ただしい感じがした。
薬草のカウンターで報酬を受け取っていると、
バルキリー担当の職員が来て声をかける。
「内密の案件があります、こちらへ」
通されたのはギルドの二階の一室。
中にはバルキリーのメンバーがすでに居た。
「みんな揃ってどうしたんです?」
そこに、体育会系ではない頭の良さそうな男が入ってくる。
「…誰ですか?」
タイチが小声で剣士に尋ねる。
「王都の副ギルドマスターだよ」
その男は挨拶もなく、口を開き淡々と述べる。
「王女殿下が誘拐されました」




