11-4 口上と、道の小石
獣人に抱えられて、ロリ猫が線をなぞって行った先は、
ロリ猫を抱えていた獣人だった。
「え、俺かよ」
「当たりを引いたので、さっさと投げられてくるにゃ」
「いや、簡単に投げられるつもりはねーけどよ」
そう言いながら、練習場の中央に向かう。
タイチも中央に並ぶ。
師範が二人にルール説明を行う。
「では、始め!」
「タノモー」
獣人はそう言い、構える。
タイチはと言うと、特に構えることもなく立っている。
その様子を見て、身なりの良い女性の集団たちは、
タイチの負けを確信する。
しかし、獣人がタイチに組みつこうとすると、
そのまま、宙に舞う。
何が起こったのか理解できないまま、
「勝負あり!勝者は口上を!」
(あ、口上か)
「えっと、その、直線的な動きじゃなければ苦戦したと思います」
あっという間に決着がつき、
女性たちの集団がざわめく。
「え、今何が起こったの」
過去に対戦した騎士団たちもやはりざわめく。
「なんで、ああなるのか分からん」
そこに護身術の先生が出てくる。
「皆さん今のをご覧になりましたか」
「見てたけどちっとも分からなかった」
女性の一人が言う。
「では、タイチ先生もう一度やって貰っても?」
「いいですよ」
投げられた獣人がまた構える。
「始め!」
「タノモー!」
今度は直線的でなく、右に左に動いて近づく。
しかし獣人が手を伸ばした瞬間、
獣人は前転しながら転がっていく。
「浅い!モウイッチョ!」
再び中央で構える獣人。
「タノモー」
獣人はスピードを上げ、フェイントを入れながら、
タイチの懐に入る。
しかし、入られたはずのタイチが、逆に獣人の懐に入っていて、
獣人は宙を舞う。
「勝負あり!勝者は口上を!」
「えっと、うまく説明できません」
「なんじゃそりゃ」
剣士が笑いながらツッコむ。
「いや、だって、」
「見てた感じだと、掴むのを焦りすぎてる」
「なら口上はこうだ」
「もう少し落ち着いて見極めれれば勝ち筋は見えていただろう」
「これだな」
「そんなの思いつきませんよ」
ふてくされるタイチ。
そこに護身術の先生が少し困った顔をする。
「獣人の方だとスピードが早すぎて、我々の目では追えませんね」
すると、エルフと王女が姿を現す。
「もう、用は終わったんですか?」
タイチが聞く。
「いや、まだじゃ」
「じゃあなぜ?」
「王女が見たい見たいとせっつくもんでな」
「あら、エルフのお姉さまもソワソワしてましたわ」
「ま、まあ、話もそこそこに切り上げて来たわけじゃ」
「それで、何か困っているんですの?」
王女が護身術の先生に話しかける。
「いえ、実は」
先ほどの話を説明する。
「なるほど、それなら私が行こう」
お付きの一人が前に出る。
「私は強くはないが、弱くもないぞ」
「速くもなければ、遅くもない」
「タイチ君の相手にはピッタリだと思う」
(……でも冒険者上がりの衛兵上がりって言ってましたよね)
そうして、お付きの一人と対戦することになる。
「タイチ君の動きは何度か見たことがあるが」
「一度手合わせしたいと思っていたんだよ」
師範がルールの説明をして、
「始め!」
お付きの男は、ゆっくりと探りながら近づいてくる。
そして、間合いの外から、腕を伸ばして掴みにかかる。
(確かに今までの人とは違う……)
お付きは重心を低く構えて近づいてこない。
タイチは、一歩前に出て、掴みかる腕の間合いにわざと入る。
間合いに入ったタイチに腕が伸びる。
その腕をかわし、その腕に沿うように身体を捻る。
お付きがバランスを崩したところにもう一歩踏み込む。
「しまっ――」
お付きはタイチから離れようとバックステップで、
後ずさった瞬間、
タイチはさらにその後ろに低い体勢の半身を入れ、体を起こす。
そしてお付きは後ろ向きに宙を舞った。
「勝負あり!勝者口上は」
「……出来る範囲で」
(あ、師範に気を遣わせちゃった)
「えっと、多分掴まれてたら勝てませんでした」
なんとか言葉にして、剣士を見る。
剣士は頷いていた。
(良かった、合ってた)
「ははは、参ったよタイチ君」
お付きは笑顔で起き上がってくる。
「大丈夫でしたか!?」
「言ったろう、弱くはないって、きちんと受け身を取ったから問題ないよ」
「良かった」
そこに護身術の先生が、
「しかし、タイチ先生の動きはなんとなく分かったのですが上手く説明出来ませんね」
すると、今まで黙って見ていたエルフが、
「タイチは、相手の力をそのまま使う」
「言わば、鏡みたいなもんじゃな」
「と、言いますと」
「そうじゃな……」
エルフは少し考える。
「普段、道を歩いてる時に小石に躓く」
「歩いている時は、特に問題もなくそのまま歩けるが」
「走っている時だと、例え小石でも盛大に転ぶじゃろ」
「そんな感じかのう」
皆、なんとなく分かったような分からないような顔をする。
「つまり、相手のいく先いく先に小石を置き続けてな」
「相手にどんどん勢いを付けさせておいて」
「盛大に転ぶタイミングで跳ね上げとるんじゃろう」
「とにかく、掴まったらアウトじゃ」
「まずは逃げ続ける練習が必要じゃな」
その言葉に王女だけが、大きく頷いていた。




