11-1 顔パスと、スタンプカード
翌朝、馬車は王都に向け、出発した。
長い森を抜けると、崖沿いの街道に出る。
見下ろした先に、広がる巨大都市。
王都。
(前の時も思ったけど、やっぱりでかいな)
二度目だというのに、まだ慣れない規模だった。
やがて、王都の門が見えてくる。
入場の列に加わる。
思いのほか列は長く、じりじりと進んでいく。
ようやく順番が回ってくる。
ギルド証を渡そうとすると、
「あ、バルキリーの皆様は、あちらの受付ですよ」
案内され、隣の入り口へ回される。
そちらは待つ人もほとんどおらず、
ものの数分で通り抜けてしまった。
「なんだよ、あんなに並んだのに」
剣士がぼやく。
「並んで損したにゃ」
通り抜けたところで、係の一人に呼び止められる。
「王城に出頭するよう、事付けを託されております」
「わかった」
「宿と王城、どちらに向かいましょう?」
御者が問う。
「先に宿へ」
いつもの宿に着くと、以前と違う部屋に通される。
「いつもと違う部屋だが」
剣士が怪訝そうに言う。
「王女様より、こちらのお部屋をご用意するよう申し付かっております」
通された部屋を、ぐるりと見回す。
「ほう、良い部屋だな」
剣士が呟く。
娘はいつものように部屋をチェックする。
「それと、今から登城するからな」
剣士が宿の店員に言うと、
「かしこまりました、夕食はいかがなさいますか」
「あー外で、いや、」
「今日のメニューはなんだ?」
「本日はヘンネのステーキと王都風トゥンジルでございます」
トゥンジルの言葉に皆がピクリとする。
「トゥンジル!」
「ここで食べるにゃ!」
「ご存知でしたか、最近入ってきたスープでして」
「ああ、ここで食べる、用意しておいてくれ」
「かしこまりました」
――
一行は王城に向かう。
衛兵がタイチ達を見るなり、
「こちらへどうぞ」
と通してくれる。
「にゃは、顔パスだにゃ」
「バルキリーも偉くなったもんじゃな」
すると衛兵が申し訳なさそうに言う。
「いえ、顔パスはタイチ殿です」
(そう言われたら、なんかそんなこと言ってたな)
「なんにゃタイチだけズルいにゃ」
「そ、そんなことないですよ、」
「僕はバルキリーのタイチなんですから」
「実質バルキリーが顔パスみたいなもんですよ」
慌ててフォローする。
「なら、いいにゃ」
そうして、応接室へ通される。
「この前とはまた違う応接室だにゃ」
「そりゃいくつもあるじゃろ、毎日たくさんの来賓があるじゃろうからな」
「ウチとはえらい違いだにゃ」
(猫さんの家って貧乏なのに応接室はあるんだ……)
「この前とは違うお菓子がありますよぅ」
聖女がお菓子を手に取る。
皆がテーブルのお菓子に群がる。
これが美味しい、あれが美味しいと言う中、
「お茶が欲しくなるにゃ」
ロリ猫が呟く。
「すぐに用意させましょう」
「???」
お菓子に群がる中に王女が混じっていた。
「いつ来たんだよ」
「今ですわ」
「いや、なんか、いつもは入ってくる時にお付きが言うだろ」
「お姉様方には不要かと思いまして」
「あのさあ、姫なんだからもちょっと姫らしくだな」
「あら、姫らしくない姫なんかどこにだって居ますわ」
「お姉様はその辺よくわかってらっしゃると思いましたが」
「いや、まあ、確かにそうなんだけど」
こうして、いつのまにか現れた王女が、今後の展開の話をする。
バッヂが未だ製品化出来ていない話。
絵札の絵師によって人気が違う話。
次の興行の話。
そして、最後に、
スタンプカードがほぼ決まりと話をする。
「なんだスタンプ制って」
剣士の問いに王女が答える。
「簡単に言うとポイント制でクエストを受けるごとにポイントが貯まる仕組みで、」
「ポイントが貯まると色々な賞品と引き換えられる制度ですわ」
「そのポイントはスタンプカードにスタンプを押しますの」
「どのクエストでもスタンプを押すのではなく、」
「ギルドの不人気クエスト限定で押しますの」
「で、賞品ってのはなんなんだ」
「食料品店や衣料品店、資料店で引き換えれる金券を考えていますわ」
「これはクエストの報酬とは別に貰えるので、」
「不人気クエストの過疎化が食い止められるのではと考えております」
「ふむ、これはなかなか良い制度じゃのう」
「しかし、これに予算を割いては赤字になるんじゃないかの?」
「実は不人気クエストは都市の整備関係が多く、」
「クエストが埋まらない分は、別で業者に依頼しておりますの」
「なるほど、スタンプにかかる予算の方が少ない見積もりなんじゃな?」
「そう言うことですわ」
「この案は王女が?」
「いえ、タイチさんですわ」
「タイチさんの絵札を買えない低所得の子供たちへの救済措置ですわ」
「なんと、この提案の裏にそんな話が……」
エルフの目には涙が滲んでいる。
「タイチさんはいい人ですぅ」
「困ってる人を……放っておけない」
「オレが認めているヤツだからな」
「あたしはお人好しすぎだと思うけど」
皆が口々に言う。
「大の虫を生かすために小の虫を殺すのが世の常じゃ」
「小の虫を殺さないようにするのがいかに難しいか」
エルフがしみじみと言う。
「タイチの発想力には毎度驚かされるのう」
(僕の発想では無いんですけどね)
――
宿に戻り、夕食となる。
ヘンネのステーキを食べながら、ふと思う。
(ヘンネの料理多いけど、どれくらい料理があるんだろう)
そんなことを考えていると、
シェフが自らトゥンジルを運んでくる。
「レシピが入ったばかりでうまく出来ているのかわかりません」
「トゥンジル公式アンバサダーのバルキリーの皆様のご意見を伺いたく、」
「ああ、そういえばこれが、オレたちの食べ方とかなんとか言ってたな」
「任せておけ」
「任せるにゃ!」
と剣士とロリ猫が自信満々に言う。
そして二人でタイチのほうに目をやる。
(僕に丸投げだった)




