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10-12 月夜と、勘違いと、迷惑な奴ら


 その後、集落の住人たちも次々と集まってきて、


 母親は何度も頭を下げ、子供たちは名残惜しそうに手を振る。


 日も落ちた頃、ようやく集落を後にする。


 結局、当初の予定より大幅に遅れて、


 夜遅く、目的地の街に到着した。


 急いで夕食を済ませ、


 今夜は一人一部屋ずつあてがわれる。


 ベッドに横になると、


 窓から差し込む月の光で、今日が月夜だと気づく。


 体を起こし、外を見ると月がちょうど二つ並ぼうとしていた時だった。


 呪符を取りだし、枕元に置き、


 スマホを取り出す。


 タダシからの通知が一件。


 [また気づいたら連絡してくれ]


 通話ボタンを押した。


 何回かの呼び出し音の後、繋がった。


「おう、俺」


「おう、どうよ」


「月が二つ」


「そうか、どうだ、そっちは?」


「まあ、生きてる」


「そうか、文字は読めるようになったか?」


「いや全然、何度見ても形が馴染みがなくて」


「そういうのって法則見つけれたら早いんだけど」


「何度も見てんだけど、わからん」


「言葉は通じてんだよな?」


「言葉はなわかるんだよ、多分こっち来る時に頼んだと思う」


「言葉だけで文字は読めないとか気が利かないな」


「確かにな」


「何か進展した事は無いのか?」


「あ、魔力はあるって言われた」


「おお、何か魔法覚えたりとか?」


「いや全然魔力を感じれないと難しいってさ」


「感じれないのか」


「うん、感じれない」


「そうか」


「あのさ、ひとつ聞きたい事があるんだけど」


 しばらく沈黙のち、


「なんだ?」


「あのさ、」


「ジャンジャカジャカジャカ」

「ジャンジャカジャカジャカ」

「ジャンジャカジャカジャカジャーン」


 口ずさむ。


「これってさ、運命だよな?」


「違う、運命は、」


「ジャジャジャジャーンだろ」


「え、それが運命?それ第九じゃないの?」


「違うよ、第九は、」


「たーらーらーら、らーらーらーらだろ」


「え、じゃあ俺が口ずさんのは?なに?」


「え、それは、カルメン…組曲だと…思う」


「え?マジか!?」


「なんだ、それがどうしたんだ?」


「俺、やっちまった」


「カルメンのことを運命って教えちゃった」


 その言葉にタダシが大きな声で笑う。


「なんだよそんなに笑うことかよ」


「すまんすまん」


「異世界に行って」


「文字も読めず、魔法も使えずなのに」


「薬草採りで話題になって、じいちゃんの柔道でワイバーン投げて」


「そんで、カルメンを運命って間違えて教える」


「全然思ってた異世界とはかけ離れてるなと思ってさ」


「メンバーも女ばっかりでハーレムっぽいのにそんな感じでもないし」


 そう言うタダシにタイチが答える。


「ほんとそうなんだよ、こないだなんか」


「風呂のライオンがすごいからって無理やり風呂に連れてかれてさ」


「そんで体洗われてほんと参ったよ」


「参ったよって、お前それマジで言ってんの?」


「服着てるからやめてって言ったら無理やり脱がされて」


「いや、お前は、その、なんだろう、すごくもったいないと思う」


「なんでだよ風呂ぐらいゆっくり入りたいだろ」


「いや、そうだけど、まあ、いいや」


「てか、なんでカルメンなんだ?」


「あ、そうそう」


「順番決める時にあみだくじ教えたんだよ」


「うん、あみだくじな。そっちにあみだくじは無かったのか?」


「多分ないと思う。」


「一番長生きで物知りのエルフが知らんかったみたいだし」


「うん、それでなんであみだくじとカルメンなんだ?」


「いや、なんとなくなんだよ」


「ほんとなんとなくなんだけど」


「線を指でなぞってる時に思わず口ずさんじゃってて」


「あーー」


「そんで、なんの曲って聞かれて」


「運命って、答えちゃって」


「なるほど、でも向こうの人は間違ってても気づかないんだからいいじゃん」


「それはそうなんだけど気にしちゃうじゃん」


「俺はそんなことを気にするならもっと他のことを気にしろって思うよ」


「なんだよそれ、お前だってあるだろ、」


「間違えたままのこと間違えたままにすること嫌いじゃねーか」


「確かに…それは…ある」


 ノイズが入る。


「あー、時間…だな、タイチ…死ぬなよ」


「おう、お前もな」


「あと……次までに文字を……少しは覚えろよ」


「うーん、善処します」


「なん……だよ、それ……」


 途切れ途切れの笑い声がぷつりと切れて、


 通話が終わる。


 枕元の呪符をしまって、目を閉じる。


 ――


 薄暗い部屋。


 黒い装束を身に纏った集団が机を囲んでいる。


 そこに部下らしき男が駆け込んでくる。


「緊急の報告です」


「なんだ騒々しい、緊急の報告とはなんだ」


「あ、はい、王都から南東の拠点が爆発で崩落しました」


「なんだって?魔力暴走か?」


「いえ、どうやらまたバルキリーのようです」


「なぜだ?バルキリーのルートからは外れているのに?」


「それが、なぜかバルキリーが現れ、地下施設周辺で爆発魔法を連発したと」


「バレたのか?」


「それも不明です」


「ぬぅ、バルキリーめ、なぜ分かったんだ」


「しかし、地下施設までは来ずに引き返したそうです」


「バレていないなら、なぜ地下施設を」


「わかりません、ただ爆発魔法を連発で撃っただけなのかも」


「そんなことあり得るのか?」


「なにしろバルキリーなので」


「予想のつかん行動をしおって」


「無意味に爆発魔法を連発で撃つとか」


「あいつらには常識がないのか」


「なんて迷惑な奴らだ」


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