10-7 おもてなしと、噂話と
馬車は王都への道のりを進み、
最初の休憩地に着く。
「あれ、ここは?」
「てっきりメス豚の街に着くと思ってたのに」
「急ぎだからな、」
「メス豚の街は実質回り道なんじゃよ」
(え、王印の時は急いでなかったんだ)
そして、よく見ると街並みに見覚えがある。
商人の孫娘の誕生日プレゼントを届けた街だ。
街の入り口で御者がバルキリーの王都行きの道中と告げると、
商人の息子が飛んできた。
「いつぞやは大変お世話になりまして」
「あれは依頼の上での事だし、報酬も十分貰っている」
「……そう言っても、お世話になった事には変わりありませんから、」
「それで、今日の宿はもうお決まりになってますか?」
「いや、まだだが?」
「それでしたら、ぜひ我が家にお越しください」
「料理と寝所を用意しますので、我が家で旅の疲れを癒やしてください」
「いきなり来てそこまでしてもらっちゃ悪いだろ」
「いえいえ、父からはバルキリーの皆様には丁重におもてなししろと言い遣っております」
「でも……」
「もしここで断られてしまったら、」
「私が父に怒られてしまいますので」
「私の顔を立てると思って……」
商人の息子の押しに負ける。
「そうか? じゃあ……甘えるか」
そうして、屋敷に招待される事になった。
とても一商人の息子とは思えない大邸宅。
通された応接室に、
娘が笑顔で、絵札を抱えてやってくる。
「私が王都に商談に行くたびに絵札をせがまれましてね」
「あの日以来、バルキリーの大ファンになったようです」
娘は一枚一枚絵札を出して説明する。
絵札の中のバルキリー達は、
どれも凛々しくかっこいい。
昨日、宿の二階でだらしなかった人たちと同一人物とは思えない。
孫娘の特にお気に入りは、
剣士が竜と対峙している構図の絵札。
これは、どこそこの戦いで――と説明する。
「そうなんですか?」
剣士に耳打ちする。
「……こんな記憶はない」
小声で答える。
子供の夢を壊さないようになのか、剣士は無言で頷いていた。
そして、豪勢な夕食が振る舞われ、
その数々の料理に舌鼓を打つ。
夕食後、別室のサロンではデザートや酒が用意されていた。
「おいおい貴族みてえだな」
「妻が貴族の出なもので」
「なるほどな、身売りか」
剣士が言うと、
「こら、口を慎め」
エルフがたしなめる。
「そう思われても仕方ありませんわ」
息子の妻が微笑む。
「実際我が家は破産寸前でしたから」
そうして商人の息子が話しだす。
「父は子供の頃に、妻の実家の出入りの商人のアプレンティスをやっておりまして」
「アプレンティスってなに?」
「徒弟、見習いのことじゃ」
「独立する時に、妻のお祖父様に資金やコネクションの面で多大なご支援をいただきまして」
「なるほど、恩返しだったんだな」
「失言だった、謝罪する」
剣士が頭を下げる。
(この人、こう言うことをさらっと出来るんだよな)
剣士の真摯な態度に感心していると、
「あのおっさん義理堅いにゃ」
(こらロリ猫!こら!)
「はは、父はああ見えてすごく義理堅いのです」
そして商人の息子は付け加えて言う。
「でも妻とは恋愛結婚なのですよ」
「お互いの素性を知らずに、街で出会って」
「何度か逢瀬を重ねて、結婚を決意したのです」
「いざ挨拶に行ったら貴族の箱入り娘で話も聞いてもらえませんでした」
商人の息子は笑いながら言う。
「父に告げると、」
「家名を聞いて、反対されました」
「大恩人の孫娘を娶るなどもってのほかと」
「で、駆け落ちしまして」
「そこまで本気ならと、許してもらったわけです」
「うう、良い話じゃな」
エルフがハンカチで目頭を押さえる。
(エルフって意外と涙もろいんだな……)
「あの時は本当に、思い切りましたわね」
妻も笑いながら、懐かしそうに夫を見る。
しばらく談笑が続く。
そして、話題が世間話に移る。
「商人として色々な情報を得るのですが」
商人の息子が、思い出したように口を開く。
「王都で流行っている名人パンの名人ってあなたでしょう?」
タイチに問いかける。
「え、なんで知ってるんですか?」
「あれだけ絵札でおすすめされてたら、誰でも気づきますよ」
「あー、確かに、でも――」
商人の息子はそのまま話を続ける。
「名人パンの話を聞いてすぐに現地で実食しましてね」
「あれはほんとによく出来ている」
「すぐに王都に卸すパンを大量に手配しまして」
「お陰様でいい思いをさせていただきました」
「さすが、名人がおすすめしてるだけあって大人気ですよ」
(おすすめした事はないと言い出せなくなっちゃった……)




