10-4 山吹色のお菓子と、良いところ
――王都、とある料亭の一室。
武器商人が、酒を注ぎながら切り出す。
「王女様の気まぐれにも困ったものですな」
「ああ、子どもの相手は疲れるわ」
「王女様の例の制度、軍備の予算削減の話も進んでいるとか」
「ああ、面倒なことだ」
「将軍は相変わらず兵士は質だ、とかで鍛錬馬鹿だし」
「これからの戦は量だ、物量に勝るものはないと言うのに」
反王女派の軍上層部の男が、苦々しく杯を傾ける。
「手前どもとしては、卸しの数が落ち込むのは困るんですがね」
「分かっている、分かっているが」
「このままだと、そちらに毎月お渡ししております山吹色のお菓子も減ってしまうことに…」
「最近、王都近郊に愛人と密会するための屋敷を建てたとか」
「な、なぜ、それを?」
「手前どもの商売は情報が命ですからね」
武器商人は笑顔で答える。
「し、しかしだな、正面切って王女様に楯突くわけにもいかんのだ」
「枢密院の件を知っているだろう?」
「ええ、存じております」
「下手を打って同じように軍部解体、再編成とでもなったら目も当てられん」
「かと言って、手前どもと致しましても指をくわえて見てるわけにもいかんのですよ」
「何かいい案は無いのか」
すると武器商人の側近が、静かに口を開く。
「――でしたら、王女様が危ない目にお遭いになれば、」
「軍備を見直す、良いきっかけになるのではございませんか?」
一同の視線が集まる。
「わ、儂は知らんぞ!何も聞いておらん!」
「いいか!王女が勝手に危険な目に遭うんだぞ!?」
「何かあっても、儂は関係ないからな!」
側近は、笑みを崩さないまま、
それ以上は何も答えなかった。
――
王城、公務室。
王女は、付人とともに資料集めをしていた。
積み上がった依頼票の束を、一つずつ確認していく。
「薬草採取、荷物運び、ドブさらい、清掃……」
「あと、書類の使い走りなんかもあります」
「どれも、あまり人気のない依頼ばかりですわね」
「ええ、毎回既定の受注数を下回っております」
付人が、別の書類を持ってくる。
「王女様、こちらが該当する依頼の受注者データです」
「やはり、多いのは……」
「貧しい家庭の子どもや年配の方たちですわね」
王女が、資料をめくりながら呟く。
「それと、こちらをご覧くださいまし」
付人が、別の帳簿を指し示す。
「人手が足りない分は、既に別で人を雇い入れて、
穴埋めをしている実態がございます」
「王都の整備関係ともなると、放置するわけにはいきませんものね」
「受注数は下降の一途を辿っており、現在ではこれだけの経費がかかっております」
「その経費が、これだけ……」
数字を見て、王女が小さく息を吐く。
「これだけあれば、絵札の方がよほど安上がりですわね」
――
その頃、東の街の宿屋。
夕食後のバルキリーたちが、宿の二階でくつろいでいた。
「僕も何か魔法が使えたりしないですかね」
エルフに尋ねてみる。
「そうじゃのう、魔力が無いようには見えんが」
「お主は自分の魔力を感じ取ることが出来んじゃろ?」
「わからないです」
「わからないと言うことは動かすことも出来ん」
「それって今からでもなんとかなるもんですか?」
「まあ、ある日突然魔法が使えるようになった例もあるにはあるが、」
「じゃあ使えるかもって事ですか?」
「魔力は幼い頃から体の一部として、認知しとるもんじゃから」
「今からだとちと難しいかも知れんな」
そう言ってタイチの手を握る。
「なんか身体がポカポカしてきました」
「今、お主の魔力をワシが動かしとるんじゃが」
「このポカポカしたのが魔力?」
そうして、エルフが手を離す。
「あ、ポカポカしてたのがわからなくなった」
「そう言う事じゃ」
がっかりするタイチに聖女が声をかける。
「でもタイチさんは魔法が使えなくてもいいところがあるじゃないですかぁ」
「それってどんなところです?」
「……」
「や、優しいところとかですかぁ」
すると皆も、
「そうだな!優しいぞタイチは!」
「うん、優しいにゃ!」
「うむ、優しいのう」
「…優しい」
「他には?」
次にエルフが、
「そうじゃなあ、周りをよく見ておるな」
「そうだな!見てるなタイチは!」
「うん、見てるにゃ!」
「…見てる」
「見てますねぇ」
「他には他には?」
今度は剣士が、
「タイチはぬるりとしてる!」
「うん、ぬるりとしてるにゃ!」
「そうじゃなあ、ぬるりとしておるな」
「…ぬるりとしてる」
「ぬるりとしてますねぇ」
「つまり、僕のいいところは、」
「優しくて、よく見てて、ぬるりとしてるにゃ!」
「もういいです!」
そうして自分の部屋に入る。
(優しくてよく見ててぬるりとしてるってなんだよ!)




