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9-10 ぬるりと、どーんと、ぱーんと


――


 宿に帰ると、


「剣姫さまの一撃をぬるりぬるりとかわして、」


「どーんのぱーんですわ」


 王女が興奮気味にことの顛末を皆に語る。


「ぬるりってなに?」


「ぬるりですわ!」


「どーんってのはなんじゃ?」


「どーんですわ!」


「ぱーんってなんにゃ?」


「ぱーんですわ!」


「皆様はその説明で分かるんですぁ?わたしにはちっともさっぱりでぇ」


 聖女がそう言うと、


 王女はスッと手を上げる。


 すると付人が前に出てきて、


 その、ぬるりと、どーんと、ぱーんを、


 わかりやすく皆に説明した。


(最初から王女の説明要らないんじゃないか?)


 そして剣姫は、


 剣士に死ぬほど怒られていた。


「てめぇ!!二度とやるんじゃねえぞ!!!」


「今後もしそんな事、考えやがったら!」


「オレがお前をぶった斬るからな!」


「よく肝に銘じとけ!!」


「分かった…もうしない…」


 そして今度はタイチに向かって、


「タイチもタイチだ!」


「え」


「なんで決闘なんか受けたんだ!?」


「いや、あの、手加減とか、なんか、してくれると思って」


 タイチのぬるい考えに、剣士はため息をつく。


「あのなぁこいつはバカなんだから」


「手加減とか出来ねーんだよ!」


 剣士にそう言われ、ムッとする剣姫。


「バカ…じゃない…」


「バカだよバカ!素人相手に剣を向けるなんざ!」


「素人…じゃない…」


「こんな、剣のイロハも知らねーやつは素人、いや素人以下なんだぞ!」


(あれ、なんかディスられてる?)


「じゃあ…」


「剣聖は…素人以下の素人に…負けそうになったの?」


「!!!」


 剣士が稲妻を受けたような顔をする。


「それは、まあ、アレだ、タイチが、特殊と言うか、」


「じゃあ…私だけ怒られるのは…納得がいかない…」


 矛先が剣士の方に向きそうになり、慌てて話題を変える。


「そんで、実際に目の当たりにしたタイチはどうだった?」


 剣姫に感想を聞く。


「なんと言うか…当たるはずの剣が…当たらない」


「王女の言う、ぬるりが…本当にその通りだと思う…」


「そして…気づいたら…どーんでぱーんだった…」


「そうか、なるほどな」


 と頷く。


「まるでウナギ…のよう、掴みどころが…ない」


 それを聞き剣士はニヤニヤと笑みを浮かべながら、


「なるほど、なるほどなぁ」


「剣姫、お前はオレに近づいてるよ」


「それだけは間違いない」


「…なんで?」


「こいつに対して剣が当たるイメージが持ててるからさ」


「ほとんどのやつは何が起こってるか分かってない」


「でもオレたちは先を読んで当たるイメージがある」


「でも…当たらない…」


「タイチ以外には当たるから心配すんな」


 剣士の言葉に剣姫は首を傾げる。


「どうして…?」


「こいつはなんか知らんが当たらないように出来てる」


 こっちを指差し言う。


「分からない…」


「まぁこいつは、オレたちの動きが視えてんだよ」


「だからこいつに当たらないのは当然なんだ」


「視えてから…動いてるってこと?」


「そう言うことだな」


 そう言いながら剣士はこっちを見ずに何か投げた。


「わっ」


 避ける。


「それだよ」


「え?これがなんなんですか?」


「今ここの豆を投げたんだが」


 机の上に置かれたおつまみの炒った豆を指さす。


「投げる動作をせずに、手首だけで投げたんだよな」


「お前はそれをかわしただろ」


「て事は、飛んでくるのが視えてんだよな」


「どういうこと?」


「お前は投げてから飛んでくるまでの間に動いてんだよ」


「それがなにか?」


「いや普通はさ、」


「こう振りかぶって投げる呼び動作があって、」


「それを見てるから、」


「あー何か投げるんだなって思うわけよ」


「でもお前はモノが飛んできてから、」


「避けちゃうんだよ」


「それも変な動きで」


「変な動きで?」


「僕、変な動きしてるんですか?」


「そうだ」


 そして、ロリ猫を呼ぶ。


 剣士がロリ猫にモノを投げる真似をする。


 するとロリ猫は顔だけ横にスライドさせて、


 ワンテンポ遅れてから体を動かす。


「え、変な動き」


「もっかいやるぞ」


 また投げる真似をする。


 顔が先に動いて、


 ワンテンポ遅れてから体が動く。


「え、なんかぬるりと動いてて気持ち悪い」


「いや、これお前の動きなんだよ」


(え!こんな、気持ち悪いの?)


「普通はこうにゃ」


 ロリ猫は右に左に反復横跳びを見せる。


 下半身が安定していて、


 すっと動く。


 剣士が手元の豆をつかみ、


 実際に投げる。


 右に投げる。


 左にスッとかわしてドヤ顔でタイチをみる。


 左に投げる。


 右にスッとかわしてまたタイチをみる。


 右左と交互に投げる。


 左右と交互にかわす。


 そして、タイチをみる。


(いちいちこっち見るのはなんか腹立つけど、すごい)


 剣士が左に投げるふりをして右に投げる。


「コーン」


 とロリ猫の額に豆が当たる。


「ひどいにゃ!」


「すまんすまん」


「ついムカついて当てたくなった」


(あ、剣士さんも同じ気持ちだった)


 そして剣士は剣姫に向き直る。


「さっきも言ったように、」


「普通は投げる動作を見て」


「何か投げられたらこう逃げるとか、」


「動きを予測して避けるんだよ」


「だからオレ達もこう逃げたらこう動くみたいな」


「先を読んで絶対当たるとこまで考えて剣を置くんだよな」


「でもこいつは先なんか読んじゃいないし」


「ギリギリのその場で最適解のとこに逃げるから」


「こっちは当たったと思っちゃうんだよな」


「だから次がないから、当たらないってのだけが残る」


「…なるほど」


 剣姫は深く頷く。


「まあ、なんにせよ」


「剣姫に倒されなくてよかった」


 そう言いながらタイチを見る。


「僕なんかの心配をしてくれてありがとうございます」


「違うよ」


「え?」


「タイチを倒すのはオレだからなぁ」


 今まで見た中で一番悪そうな顔をする。


(やっぱこの人もコワイ)


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