9-6 ファンの鑑と、声援と
イベント当日。
朝に薬草採取に行こうとすると、
王女が今日もついてこようとするので、
必死になだめる。
さっさと朝のうちに済ませて帰ってくる。
流石に王女同伴ではこのスピードで帰って来れない。
宿に戻ると、ちょうどみんなが着替え終わったタイミングだった。
さっさとステージ衣装に着替える。
と言ってもウェストコートを羽織るだけだが。
宿から、移動するとちょうど広場のステージの真裏側で
ステージ裏のテントに入る。
広場には、大勢の人が詰めかけていた。
薬草採取で見かける人たちや、ギルドで見かける人。
明らかに地元ではない雰囲気の人たちもいた。
「集客はまずまずと言ったところですわね」
王女が満足そうに言う。
「これ、よその街からも来てるのかな」
「そりゃそうでしょ、この街のどこに、こんなに人が居るのよ」
娘が呆れたように言う。
「これだけの為にわざわざ来るなんてすごいな」
すると、王女が、
「タイチさんは分かってるようで分かってませんわ」
「そうねタイチはまだ分かってないわ」
二人でタイチに小言のようなことを言う。
「ごらんなさい」
ステージの前の方を指差す。
最前列では、
「事前の告知によると、この街限定の衣装らしいぞ」
「それはアツい、はるばる来た甲斐がある」
「その衣装の限定絵札も出るらしいぞ」
「まじか、それは買うしかない」
遠征組と思わしき連中が話している。
「推しが例え遠方に居ても、駆けつける」
「これがファンの行動心理、ファンの鑑ですわ」
さっぱり分からないが、
「な、なるほど!鑑ですね!」
と、うすら笑いを浮かべて相槌をする。
――
いよいよ、イベントの開始が迫る。
付人は舞台袖で司会進行の準備を整えている。
そして皆に、
「皆さまの登場となりましたら一人ずつお呼びしますので」
「呼ばれた通りに出てきていただければ」
と進行の確認をする。
司会が舞台に立つと、
司会の登場だけで歓声が湧き起こる。
一旦、落ち着かせてから、説明を行う。
いくつかの注意事項が告げられた後、
いよいよ、一人ずつ呼ばれる。
エルフが出る。
エルフは中央で、軽く膝を曲げ、頭を下げる。
「うーん、ミステリアス」
「絵札もいいけど実物はやっぱいいな」
そして、舞台の端へ移動すると、
聖女が呼ばれる。
ステージに上がる階段でいきなり躓き転ぶ。
大きな胸を揺らしながら立ち上がり、
顔を赤くして、ステージの中央で礼をする。
「くぅ〜!ドジっ子推せる!」
「それもだけど何よりスタイルがいいんだよな」
そんな客席の声に娘が、
「あれ、計算でやってんじゃないの?」
とか言い出す。
「まさか、あれが計算だったら凄すぎるよ」
聖女が端に移動すると、
魔法使いが呼ばれる。
魔法使いは中央まで歩いて行き、
くるりと後ろを向き、龍の刺繍をアピールする。
「かーっ!カッコよすぎだろ!」
「あんな小柄な体で、国一つ焼き払う魔法撃つんだもんなあ!」
魔法使いが中央から全く動かないので、
司会が、聖女の横に引っ張っていく。
そして今度は剣士と剣姫を同時に呼ぶ。
剣士と剣姫が対で出てくると、
ここで客席の女子たちの黄色い声が上がる。
「王都の布告式の時も尊かったけど、今日も尊い」
「剣士さまにエスコートされたい」
「剣姫さまも、反則じゃない?」
「美人なのに剣の腕もあって、」
「それなら剣聖の称号の剣士さまよ」
そして、剣士は胸の前に手を添え、軽くお辞儀をする。
剣姫は腰の剣に手を添え、腰を少しだけ落とし、頭を下げる。
そしてまた黄色い声が上がる。
そんな女子たちを見ながら、
「やっぱり二人の女子人気はすごいね」
と振り向くと、
王女と娘は袖からかぶりつきで、二人を凝視し
ハァハァ言っていた。
(この人たちは何をやってるんだ…)
司会が娘を呼ぶ。
娘は呼ばれたことに気づかず、まだ凝視している。
「ねぇ、呼ばれてるよ?」
「え?あたし?」
娘が慌てて、小走りでステージに向かう。
ステージの中央で軽くお辞儀をする。
「あの子、宿の娘じゃないか」
「やっぱそうか、見たことあると思ったんだよな」
「王都に行って随分と垢抜けたな」
「全然推せる」
そして、ロリ猫の番になった。
名前が呼ばれると、
ロリ猫はマントを羽織り、フードを被ったまま、
ステージの端から颯爽と歩み出て、
中央に着いたところで、マントを脱ぎ去る。
フリルの付いたピンクの衣装に早変わりすると、
「おおーーーー!」
歓声が上がる。
ステージの真ん中でくるりと回り、
観客に向かってポーズを決めた。
また声援が上がる。
手を振り、笑顔を向け、またくるりと回る。
さらに声援が上がる。
「……」
(あれだけ嫌がってたのに、ノリノリじゃないか…)
「やっぱバルキリーは映えるよなぁ」
「王都から来た甲斐あったわ」
「ヘルバルキリーっつっても美人揃いなんだよな」
観客が口々に言う。
そして、ふと思った。
(え?僕、この後に出るの?)




