確かな証拠
夜の学院は、昼間の喧騒を忘れたかのように静まり返っていた。
僕は書庫の奥にある研究室で、魔法の記録をひとつずつ確認していた。
聖具が破壊されたのは前日の夜。リアナが話してくれないのならば、その時間に何をしていたか調べればいい。
リアナの髪飾りがある、ということはリアナがやった可能性が高い。
でも、あの夜、涙ながらに「もう誰も傷つけたくない」と言っていたリアナを思い出すと、目の前の証拠だけで彼女を疑うことなどできなかった。彼女を貶めようとした人がいるかもしれない――。
「……リアナ、君は絶対に、そんなことはしないよな。」
僕は独り言のように呟き、記録魔法の映像を指でなぞった。
――事件が起こった時間帯、リアナは図書館の研究室にいた。
何度も魔法記録を確認したが、彼女の存在を示す証拠がはっきりと映っている。
「リアナは無実だ。」
そう呟くと、胸の奥が熱くなる。
無実の彼女を、ただ信じ続ける。
それが、僕にできる唯一のことだった。
だが、教室や廊下に戻ると、空気は変わっていた。
噂はすでに学院中に広がっており、誰もが口々に囁く。
「王子様、悪女に操られているらしいわ。」
「リアナ様の味方をするなんて、王子様も変わっちゃったのかしら。」
「リアナ様が王子様を洗脳しているそうよ。」
頭では理屈を理解できる。
だが、心は拒む。
リアナが、あの優しい微笑みを持つ彼女が、誰かを傷つけるはずがないと。
「……誰も信じてくれないか。」
僕は誰もいない中庭に座り込み、夜空を見上げる。
欠けた月が、静かに光を落としていた。
まるで、真実を隠すように。
翌日、僕はリアナに会いに行った。
彼女はいつもの静かな表情で、図書室の窓際に座っていた。
「事件が起こった日、君は図書室にいた。だから、やってないはずだ。」
その言葉に、リアナはわずかに眉を寄せた。
しかし、口を開くことはなかった。沈黙のまま、微かに頷くだけ。
「でも……誰も信じてくれないんだ。」
そう呟くと、リアナはそっと視線を落とした。
僕は握りしめた拳を、彼女に見せることなく、胸の前で強く握った。
「構わない。僕は信じている。」
その瞬間、教室の窓の向こうから囁き声が聞こえた。
「王子様、リアナ様を守ってるらしいわ」
「王子様、悪女に夢中なのね」
……まるで、世間が僕の行動を逆手に取って、さらに噂を膨らませるかのようだった。
けれど、僕は揺らがなかった。
証拠も、記録も、そして何よりも――心の中で確信している彼女の優しさも、すべてが示している。リアナは無実だ。
中庭の風が、欠けた月の光に揺れる。
冷たく、静かに、でも確かに、彼女を守る覚悟を強くさせる。
「君は無実だ。僕が証明する――たとえ、誰も信じてくれなくても。」
その言葉を胸に、僕はまたひとり、孤独の中でリアナを守る決意を固めた。




