強い決意
朝の教室は、柔らかな光が差し込むだけで静かだった。
だが、空気は穏やかではない。噂はまだ燻っており、耳に入るたび胸がざわつく。
「リアナ様が聖女様の侍女まで奪ったんですって。」
「まあ、王子様どころか侍女まで――。」
「そんな方を許すなんて聖女様は慈悲深いわ。」
僕は机に手をつき、息を整える。信じたくない。リアナが人を傷つけるはずがない――そう思わずにはいられなかった。
横から低い声が聞こえた。
「レオン、聞いてくれ。あまりリアナ様に肩入れするな。」
振り向くと、エリオットが真剣な目で僕を見ている。
「君は王子だ。婚約者として、まずセレスティアのそばにいるべきだ。リアナ様を信じたい気持ちはわかるが、セレスティア様が傷つく。」
僕は短く息を吐いた。
「分かってる。でも……それでも僕は、リアナを信じたい。」
エリオットは眉をひそめ、少し声を低くした。
「信じたい?いや、俺も信じたいさ。しかし、君は王子だ。噂や証拠の前で感情に流されるのは危険だ。リアナは黙っている。周囲は君の判断を見ている。ここで君が偏れば、君は信頼を失うぞ。」
僕はじっと彼を見つめ、視線を逸らさなかった。
「理屈では分かる。でも、心では信じるんだ。リアナは、誰よりも優しい人間だ。」
エリオットは少し間を置き、腕を組む。
「王子としての立場を忘れるなと言っているんだ。証拠だってある。私情を挟んで判断を誤るな。」
僕はゆっくり頷く。
「周囲がどう思おうと関係ない。理屈よりも、僕が知っているリアナを信じる」
エリオットは唇を引き結び、しばらく黙っていた。やがて、わずかに肩を竦めて言う。
「……わかった。君がそこまで決意しているなら、俺は応援する。友として。」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなった。
授業が始まり、魔法理論の実習が教室を満たす。生徒たちは光と音に集中し、噂もまるで別世界のもののように遠ざかる。
僕は無言でリアナを見た。彼女は黙ったまま、机の上の書類や魔法陣に集中している。目の前に広がる静けさの中、彼女だけが揺らがない強さを持っていた。
セレスティアが教室に入ると、生徒たちは一斉に視線を集める。彼女は笑顔で授業を見渡し、聖女としての威光を放つ。
リアナは黙し、誰の目にも触れずに存在している。
僕は胸を締めつけられる思いだった。誰も信じてくれない。だが、僕の信念は揺らがない。
僕は深く息を吐き、窓の外を見上げる。
――リアナ、君を守る。孤立しても、噂に押し潰されても、僕は信じ続ける。
僕は拳を握りしめる。胸の奥で固く誓う。
――誰が敵でも、僕はリアナを守る。誰も信じなくても、僕は信じる。




