リアナの諦め
学院の鐘が三度、乾いた音を響かせた。
講堂の中に広がる沈黙は、あの日の事件以来、どこか重く湿っている。
壊れた聖具。セレスティアの悲しむ顔。
そして、名指しされたリアナ。
「……弁明は、ないのですか?」
教導官の問いに、リアナはただ目を伏せたまま、小さく首を振った。その姿は、まるで罪を認めた者のように静かだった。
僕は息を呑む。
違う、彼女はそんなことをする人じゃない。
でも、彼女は自分の潔白を口にしようとしなかった。
まるで、すべてを受け入れるように。
「……リアナ様を責めないでください。」
柔らかな声が講堂に響く。
セレスティアだった。
彼女は傷ついた肩を押さえながら、涙をこぼしていた。
「彼女は、きっと反省しています。どうか、罰など与えないでください。私が望んでいません。」
その言葉に、ざわめきが広がった。
“聖女が罪人を許した”――そんな構図が瞬く間に人々の心を掴んでいく。
けれどその慈悲は、リアナを救うものではなかった。
むしろ、彼女をより深く孤独へと沈めていく。
「やっぱり聖女様はお優しい。」
「リアナ様は……反省しているのね。」
そんな囁きが、あちこちで聞こえ始めた。
僕の胸の中に広がるのは、焦燥と疑念だった。
セレスティアは本当に、リアナを庇っているのか?
それとも――。
だが、彼女の涙を前に、僕は言葉を失った。
誰が悪いのかも、何が真実なのかも、もう分からなかった。
講堂を出たあと、リアナは一人で中庭に立っていた。
風がリアナの艶やかな髪を揺らす。
その横顔は、どこまでも穏やかで、どこまでも遠かった。
「リアナ……どうして黙ってるんだ。君が言えば、みんなだって――。」
「言っても、誰も信じないわ」
彼女は微笑んだ。まるで諦めを受け入れるように。
「レオン様だけが、私を信じてくれた。それだけで、もういいの。」
その言葉が胸に刺さる。
僕は彼女の手を掴もうとしたが、リアナはそっと一歩下がった。
「ありがとう。でも……これ以上は、あなたまで巻き込みたくない。」
風が、聖堂の鐘を揺らした。
その音は、まるで鎖のように僕を縛りつける。
彼女を守りたい。
でも、何をすればいいのか分からない。
誰に話しても、信じてもらえないだろう。
――孤独の檻に閉じ込められているのは、きっと僕も同じだった。
セレスティアは相変わらず優しい微笑みを浮かべて、僕を気遣ってくれる。
だが、その瞳の奥に映る光は、どこか冷たい。
「レオン様、リアナ様のこと……どうかお心を痛めないでくださいね。きっと、これも運命なのですわ。」
運命。
その言葉がやけに重く響いた。
僕は頷きながらも、心の底で何かが軋むのを感じていた。
あの夜から、すべてが少しずつ壊れていく。
信頼も、友情も、そして――心の支えまでも。
誰も信じられなくなっていく中で、
僕はただ、リアナを探し続けていた。




