↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣目録  作者: SUNNY
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

8.「魔剣 その2」

 ヘリック・ディロウは空位のヴァンガードだ。

 剣の実力も、魔法の練度も。こなしてきた依頼の数だって、そこら辺の奴らに負けていない。そう自負するだけの実力がある。

 だが、それでも。何度掛け合っても星位には上がれない。

 苛立ちが募る。焦りが怒りを呼ぶ。

 血の滲むような努力をしてきた。いつだって、依頼には真摯に取り組んできたつもりだった。

 だというのに、ギルドは「まだ早い」の一点張り。

 何かが足りない。実力なのか、あるいはこなした依頼の数なのか。はたまた、もっと別の何かなのか。ヘリックにはもう、見当がつかなかった。

 だというのに。これほど焦がれているというのに。

 誰も評価してくれることはない。

 許せない。


 ──アラン・ノイン。


 自分よりも低い階位にいるはずの奴が、遥か高みにいる天位の連中と親しげに話しているのが。

 ヘリックには、堪らなく許せなかった。

 いつもダラダラと、努力もしなければ、命だって懸けやしない。ただ簡単な依頼ばかりこなして、数だけを増やしている。

 なのに、なんであいつはあんなに天位の連中と親しげにできるのか。

 なぜ、これほど努力をしている自分じゃないのか。


「くそッ!」


 ヘリックは、苛立ちを隠すこともせず、その怒りのままに路地裏に置いてあった木箱を蹴り飛ばした。ガラガラと音を立て、その木箱が転がっていく。

 さっきのことを思い出して、ヘリックの怒りはますます増していく。無自覚にも、握る手に力がこもる。

 その時、ふと、転がっていく木箱が唐突にその動きを止めた。


「ア?」


 箱が行き着いた先。昼間だというのに薄暗い路地、その建物の影が落ちる場所に、誰かが立っている。

 その足が、転がっていた木箱を止めていた。

 頭からつま先まで、全身を覆い隠すような外套に身を包んだ人物。シルエットだけでは、男か女かもわからない。

 顔すら見えないその人物が、かすかに笑った気がした。

 それが、ヘリックの怒りを助長する。


「テメエ、何がおかしい」


 苛立ち交じりに、普段よりも数段鋭いその眼光が、その人物を睨みつけた。

 一般人ならば、それだけで尻もちをつきながら逃げ出していただろう。だというのに、その外套の人物は、微動だにすることはなかった。


「いいえ、おかしくなんてありませんよ。ヘリック・ディロウさん」


「……なんで俺の名前を知ってやがる」


 鋭い眼光が、ますます鋭利に細められる。

 あからさまに怪しい人物──声からして男か──に、警戒心を隠すことなく腰の剣へと手を伸ばした。


「それはもちろん知っていますよ。空位のヴァンガードともなれば当然でしょう」


「理由になるかよ。空位なんざごまんといる」


「ふむ、自己評価が低いのですね」


「ほざけ」


 剣に添えられた手に、力を込める。

 その瞬間、目の前が真っ暗になったように感じた。

 ──いや、違う。

 真っ黒な外套の男が、目の前まで距離を詰めている。

 それを理解した刹那、ヘリックは剣を抜こうと試みる。

 だが、剣は鞘から抜けることはなかった。

 柄頭を、外套の男が押さえ込んでいるのだ。


「……ンだこれ……」


 手の中に収まる、一振りの剣。

 どこか物々しい雰囲気を醸し出すそれは、一目でただの剣ではないことがわかる。昏く、静かなはずなのに、見ているだけで目を奪われるその存在感。

 ──この剣を使えば。

 ヘリックの頭に、そんな言葉がよぎる。

 柄を握る。その瞬間、ヘリックの目の前が、血にまみれたかのように真っ赤に染まった。

 怨嗟の声。怒りの咆哮。

 それらがヘリックの心を侵していく。

 そこで、ヘリックの記憶は途切れた。


──────


「──ッ、スイレン!」


 霧がかかったような感覚が消え、地下室を見渡したリンドウ。その金の瞳に映ったのは、美しい着物を血で汚したスイレンの姿だった。

 いつもは冷静沈着な彼は、すぐさま彼女へと駆け寄った。

 なぜこんな場所にいるのか。なぜこれほどの傷を負っているのか。考えるべきことは多かったが、それ以上に、今大事なのは彼女の安否である。

 彼女の体に触れ、その呼吸を確かめる。

 すると、僅かに胸が上下していることがわかった。

 はだけた着物の隙間から覗く肌には、痛々しい傷跡が残っている。だが、もう出血しているわけではないらしい。

 その周辺と衣類は血で塗れているものの、どうやら傷口は塞がっている。

 傷から感じるマナの残滓から、自身で治癒を施したことがわかる。


「リンドウさん、スイレンさんの容体は?」


「──生きてはいる、といったところか。己で傷を塞いだらしい」


「そう。流石はスイレンね」


 リンドウの横でスイレンの様子を窺うシンシアが、安堵したような声を漏らした。


「よかった──」


 シンシアがそう胸を撫で下ろした、その瞬間。

 彼女の持つギルド証から、焦燥に満ちた声が響く。

 いや、彼女のギルド証だけではない。リンドウのものからも声が響いた。


「こ、こちらギルド本部! ギルド内で、ヴァンガードの一人が錯乱、暴れています! 誰か救援を──」


 焦燥に満ちたその声は、まるで何かに遮られたかのように、途中で途切れた。

 その内容に、アランも、シンシアも、リンドウですら驚いたように顔を見合わせる。


「【天眼】、【無刃】。お前たちはギルドに戻れ。私はスイレンを介抱する」


「──わかったわ。スイレンのこと、お願い」


 シンシアは、自分が言うことではないと思いつつも、そう言った。

 アランは頷き、立ち上がる。もうその手に魔剣は握られていない。いつの間にか納めていたのだろう。


 アランとシンシア。二人はリンドウにその場を任せ、急いで屋敷を飛び出した。


 屋敷は商業区の外れ。ここから中央区へは、最短距離でも一時間はかかるだろう。

 アランは走りながら、そんなことを考える。

 だが、それほどの時間をかけている余裕などあるはずもない。

 間に合わない。

 そんな考えが頭をよぎった、その時。

 前を凄まじい速さで走るシンシアが、急にこちらを振り向いた。


「アラン、飛ぶわよ!」


「は!?」


 シンシアのその一言に、アランは驚いたまま声を上げる。

 しかし、説明することもなく、シンシアはアランの速度に合わせて横に並ぶ。そして彼の襟首を掴み上げ、一気に跳躍した。


「“風よ”“我が身に疾風の如き力を”」


 短い詠唱。

 その瞬間、空中へ躍り出た二人の体を突風が包み込む。

 そして、一気に加速した二人は、中央区のある方角へと流星となって飛翔する。だと言うのに、体にかかる風圧はさほど感じない。相当の技術である。

 そこから中央区までの道のりは、ほんの数十秒ほどのものだった。


 二人が、地面へと着地する。凄まじいスピードで飛翔したというのに、着地の瞬間は驚くほどに静かなものだった。

 だが、それを称賛している暇はない。

 アランとシンシアは、そのままギルドへと駆ける。

 ギルドの外、そこには多くの人だかりができていた。

 職員や、彼らを避難させることを優先したヴァンガードたちが、中の様子を伺っている。そんなギルドの中からは、何かが破壊される音と怒号が聞こえてくる。


「あ、シンシアさん、アランさん!」


「どういう状況?」


 二人の姿に気づき、声を上げたのはエリナである。彼女はやってきたシンシア、アランの姿を見て、表情を少しだけ明るくする。


「それが、暴れているのはへリックさんでして……」


「へリックが暴れてる?」


「はい。普段とはすこし違った様子でして、変な剣を振り回しています……」


 アランはそんな説明を聞き、僅かに開いた扉から中の様子を伺った。その中では、剣を構え、いつも以上に悪人面をゆがめたへリックと、それを取り囲むように、何人かのヴァンガードが相対している。中には星位のヴァンガードもいるが、膠着状態、といった様子だった。


「どうなってるのよ、なんで星位がいて取り押さえられないのよ」


「大方、あの剣の力だろ」


 いつの間にか隣に立つシンシアの問いに、アランが答える。

 へリックが持つ剣。それは明らかに魔剣の類だ。滲みでる異様な力が、それを物語っている。


「アラン・ノインはどこだ!!?」


 そんな風に様子を窺っていると、へリックがそう叫ぶ声が聞こえた。予想だにしない自身の名前に、アランが驚いたかのように目を見開いた。


「オレ!?」


「ご指名らしいわよ」


 シンシアが茶化すようにいう。茶化している場合じゃないだろう、という感想はおいて起き、アランは少しの間考え込んだ。


「オレを狙ってるなら……、エリナさん、今って地下の試験場は開いてるか?」

「試験場、ですか? たぶん……」


「よし。なら、俺が試験場まで誘導す──」


 アランがそう言おうとした瞬間、彼らがいるギルドの入口に、机の一つが飛んでくる。咄嗟にアランは身を引っ込めると、その机は扉を粉砕して外へと転がった。


「ようやくお出ましかよ、【刃無し】ィ!」


 見つかっちまった。そんな風に思いながらも、アランは腰の剣へと手を掛ける。


「とりあえず、試験場まで誘き寄せる。他に被害が出ないようにそっちは頼んだ」


「わかったわ」


「女とイチャイチャ楽しそうじゃねえかよ、なあ!?」


 跳躍し、剣を振り下ろすへリックの一撃を、アランは受け流すことで対処する。体勢を崩したへリックを尻目に、アランは試験場のある地下へと走り出す。


「待てやぁ!!」


「追いついてみろよ」


 もともと挑発には弱いへリックだ。今ならなおさらだろう。必ず追いかけてくるよう仕向けるためにも、アランは笑みを浮かべながら挑発する。その背中を、へリックは当然のように追いかけ始めた。

 なぜこんなにアランに執着するのか、アランにはいまいち理解できないが、矛先が自分に向いているのであれば好都合。

 アランはそんな風に考えながら、地下の試験場へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。