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【頭脳戦×下剋上】『絶対階区(カースト)のリーガル・ハッカー』 ~無能な魔王と健気な女王、底辺からすべてを奪う~』  作者: 盤上廻


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第32話【八神燐花】暴力による蹂躙(エンターテイメント)

 ――だが。


 アタシの目には、彼らの動きが、案山子のように見えている。


 右前方、帯島。


 瞳孔の散大から殺意を察知。右腕のわずかな力みから軌道を予測。


 1秒後に右フック。


 左側面、眼球の微細な動きがアタシの腰を捉えてる。


 踏み込みが浅い牽制。後方、呼吸を止めた。……レスリングのダブルレッグタックルだな。


 アタシの網膜は、あいつらの筋肉がピクリと動くより先に、目線から発せられる殺意の信号を受信している。


 空間に浮かび上がる、赤く透き通った『未来の死線』。


 ……ああ、たまんねぇ。


 このスローモーションの世界で、あいつらの脆い骨を正確な角度でへし折る。

 それがそのまま、アタシの莫大な資産を防衛するための『スコア』になる。


 資本と暴力が、こんなにも美しく交わる絶頂が、他にあるかよ!


「お前らの『未来』は、アタシの『過去』だ、そんなスローモーションで、アタシに触れるとでも思ってんのか? ざぁーこ♡」


 アタシはハイになりつつ、右前方から総合格闘技経験者の帯島が全力で振り下ろした綺麗な拳の軌道を、彼が腕を振る前に首をわずかに数ミリ傾けるだけで回避する。


 空を切った拳が髪を揺らし、その硬直、致命的な隙。


 アタシは、帯島の懐に潜り込みながら、彼を見上げて甘い無邪気な笑みを浮かべた。


「隙だらけだよ、ばーか♡」


 踏み込んだアタシの右足の筋繊維が駆動する。


 パァンッ!


 踏み込んだ石畳が、僅かにクレーター状にひび割れ、砕ける。


 アタシが懐からカチ上げた掌底は、帯島の顎を正確なベクトルで撃ち抜く。脳震盪を引き起こす角度と、ヘビー級の全力の蹴りにも等しい瞬間出力。


 体重九十キロの帯島が、一撃で白目を剥きながら、両足からふわりと浮き上がる。

その瞬間だった。


コロッセオの上空に展開されていたホログラムシステムが、格闘ゲームのようなド派手なエフェクトとポップな電子音を放ち始める。



《エクセレント! 運動エネルギーを検知しました。換算150ポイント!》

《特例ルール適用。累計スコアをマイナスへ反転します 》

《第三階区・現在スコア【マイナス150点】!》



「あははっ♡ なにこれぇ、超ウケる! パパのシノギを手伝ってヤキ入れてた時より、随分とポップなケジメのつけ方でいいじゃねぇか」 


 アタシはケラケラと笑いながら、帯島が地面に落ちる前に、石畳を蹴り砕いた踏み込みの遠心力をそのまま利用し、独楽のように身体を回転させる。


振り返りざま、左側面にいた二人目の右脇腹に、三日月蹴りを深々と突き刺す。


「がはっ……!?」


 自階区生が胃液を撒き散らしながら、その場で膝から崩れ落ちる。



《コンボ! エネルギー換算200ポイント! 》

《特例ルール適用。第三階区【マイナス350点】》

《連続コンボを確認! 第三階区、致命的なマイナス圏へと急降下します!》



『や、やめろ! 燐花ぁ!』


 インカム越しに、常に冷静沈着だった切島の、血を吐くような叫びが響く。


「知るかよ! テメェらの安い算盤で、八神のシマに泥塗ろうとした落とし前、キッチリ払ってもらうからなぁ!」


「燐花の姉さん、ここまででバケモノだったなんて!」


「保護ウェアの上から、一撃で骨まで響いてきやがる……。出力量がおかしいだろ!」


 残った7人が、アタシへの恐怖に本能的に顔を引き攣らせる様に足を止めた。


「あははっ! ようやく理解(わか)ったか? テメェらはもう「狩る側」じゃねェんだよ。アタシの資産(タマ)を守るための『スコア反転用サンドバッグ』でしかねェってことに!」


 アタシは、恐怖で硬直した男たちの中心へと、自ら歓喜の声を上げて飛び込む。

「クソ、お前ら散って燐花さんを止めるぞ!」


 ここからは、戦闘ですらない。ただのアタシからの『蹂躙』だ。


「弱ぇヤツは、すぐ死んじゃうぞぉ♡」 


 アタシが味方を粉砕して笑い声を上げるたびに、無機質でポップな実況が鳴り響き、スコアがパチンコ台の逆回転のように、凄まじい勢いで地獄へと沈んでいく。


「くそっ、後ろから押さえつけろ!」


 背後から羽交い締めにしようと飛びかかってくる男。


「遅い、遅い、遅ェんだよぉ♡」 


 アタシは振り返りもしない。背後の男の気配を読み取り、細い右腕を後ろへ突き出し。


 ガシッ! と。アタシの手のひらが、突進してくる男の顔面を真正面から鷲掴みにする。


「ガァ!」


 全力で突進してきた男の運動エネルギーを、アタシは一切の反動を逃すことなく、片手一本でピタリと受け止めた。


 男の足が宙で虚しく空回りする。


「はい、マイナス100点、追加ぁ♡」


 アタシはそのまま、顔面を掴んだ男の体を片手で空中に持ち上げボウリングの球の様に、目の前で固まっていた2人の男に向かって全力で投げつけた。


 メキャッ!


 硬い衝突音と共に3人が絡み合って吹き飛び、床を転がっていく。



《コンボ! 質量兵器による巻き込みエネルギーを検知。300ポイント! 》

《特例ルール適用。第三階区【マイナス650点】! 》



「さ、災害だ……! ガードしろ、固まれ!」


 残る4人が、戦意を喪失し、亀のように防御姿勢を取る。


「馬鹿か? アタシの前で、肉の盾なんて意味ねぇんだよ」


 アタシは弾むように宙を舞い、防御を固めた男の腕の上から、容赦なく踵落としを叩き込んだ。


 メキッ、と。プロテクター越しに、ガードしていた腕の骨が嫌な音を立てる。


「ぎゃあぁぁぁっ!」


「さぁて、次のお兄さんは誰? 遠慮すんなって! たっぷり身体で払わせてやるからさぁ♡」


「ひぃっ! 逃げろ、殺される……っ!」


「あぎゃあっ!」


 数分前まで五階区を威嚇していた武断派たちが、出口に向かって逃げ惑う。


「おいおい、サボタージュしねぇと、システム上はまだ『参加者』のままだぞ? 逃げてもポイントの的になるだけだろうが!」


 アタシは挑発的な笑みを浮かべ、コロッセオのすり鉢状の壁面へとダッシュした。


 傾斜を利用して斜め上へと数歩駆け上がり、そこを起点に三角跳びの要領で宙へダイブする。


 立体的な死角から、逃げ惑う男たちの頭上へと降り立つ。


「あっはは! どこ行くんだ、雑魚ども! アタシの快楽になってから寝ろやぁ♡」 


 アタシの強烈なニードロップが、男の背中を直撃する。


 センサー付き保護ウェアがピーッ! と警告音を鳴らし、男は気絶した。



《立体機動による強烈な加重を検知。200ポイント! 》

《――第三階区【マイナス850点 】! 》



 着地の反動をそのままバネにし、アタシは残る連中の間を縫うように駆け抜ける。彼らが逃げようとする方向へ、アタシの方が「先」に置いてある。


 骨が軋み、呻き声が上がるたびに、ホログラムの赤い数字が跳ね上がっていく。




 ――ズガァァンッ!

《コンボ! 第三階区【マイナス1100点 】!》

――ドゴォォッ!

《コンボ! 第三階区【 マイナス1450点 】!》

《連続コンボを確認! 致命的なマイナス圏へと急降下します! 》




 インカムから漏れる切島の過呼吸音、闘技場に鳴り響く骨の砕ける音と野太い悲鳴。


 血と暴力と資本主義のエゴが混ざり合った、娯楽(カオス)


 アタシの脳髄は、最高純度のドーパミンで満たされていた。


 ふと、アタシの視界の端に、ある異様な光景が映った。


 アタシがこれだけ暴れ回り、爆音と悲鳴が飛び交っているのに。


 コロッセオの中央。第五階区の10人は、誰ももサボタージュを解除せず、目を固く閉じてお互いに抱き合うようにして座り込み、微動だにしていなかったのだ。


「……異常だろ、こいつら」


 アタシは、白目を剥いて気絶している、最後の9人目の胸ぐらから手を離し、血濡れた拳を振り払いながら、内心で舌を巻いた。


 蜘蛛の子を散らすように逃げ出すどころか、悲鳴一つ上げねぇ。


 ただビビって腰を抜かしているのとは違う。


 嫌というほど見てきた、命を差し出す覚悟を決めた鉄砲玉の目に似ている。


 アイツらは、アタシの暴力なんかよりも遥かに重くて恐ろしい呪いで、自分たちの両足を石畳に縫い付けているんだ。


 切島が、あいつらを『無敵の人』にされて空振りしたのもそうだ。


 あの雨宮って女は、ただの善意の防弾チョッキだったはずだ。


 あいつの頭だけで、こんな法と経済のバグを突いた悪魔みたいな盤面が組めるか?


 ――違う。


 この学園のどこかに、切島悠河の論理を逆手に取り、アタシの『資本主義的なエゴ』すらも計算式に組み込んで、特等席でこの泥仕合をプロデュースしている『裏のゲームマスター』が潜んでいる匂いがする。


 アタシは、獲物を探す猛禽類のように目を細め、第五階区の群れを捉ええた。


 ――誰だ。


どこのどいつが、アタシすらも『マイナスノイズ』として利用する盤面を描いた?

その裏に隠れているヤバい糸引きを、アタシの前に引きずり出し――


 ――そう思考した、次の瞬間だった。


 怯え、微動だにしない貧民どもの群れの中から、雨宮礼奈が立ち上る。


 すでに後頭部で濃紺の髪をキツく結い上げ、視界を遮るものを何一つ持たない彼女は……あろうことか、血の匂いと殺気を撒き散らすこのアタシに向かって、自ら一歩、二歩と歩み寄ってきたのだ。


「……あぁ?」


 アタシは思わず、その異常な行動に目を細めた。


少女の細い両足は、アタシに対する本能的な恐怖で、情けないほどに震えきっている。


 今すぐその場で泣き出して、命乞いをしてもおかしくない脆弱なステータスのゴミ。


 だが、その『瞳』だけが違った。


 彼女の琥珀色の瞳には、アタシへの恐怖を焼き尽くすほどの、『自己犠牲の狂気』が宿っていた。


 彼女は、アタシの間合いのギリギリで立ち止まると。


 味方の血で塗れたアタシの顔を真っ直ぐに見つめ……迷える子羊を労わる、『聖母の微笑み』を浮かべて、こう言った。


「――私たちのために、貴方たちの階区を壊してくれて……本当にありがとう、八神さん」


「……」


 その微笑みは、透き通っていた『純粋な善意』だ。


 自分が全リスクを被り、クラスメイトを呪いで縛り付け、その上で、敵であるアタシの暴力すらも『駒』として利用し尽くした、この泥仕合の頂点で。


 自分たちが助かったから、他人が血を流そうが、組織が崩壊しようが、心の底から感謝する。


 それを『美しい自己犠牲』として信じて疑わない、狂気。


 アタシの背筋を、かつて感じたことのない、得体の知れない悪寒が駆け抜けた。


 その瞬間。雑魚どもを嬲って楽しんでいたアタシの口元から、無邪気な笑みが、スッと消え失せる。


 代わりに浮かび上がったのは、裏社会で無数の死線を見てきた『警戒』の兆し。


――裏のゲームマスター?


 間違いない、そいつは存在する。


 しかし、目の前にいるこの『異常者』も無自覚だろうが、アタシの暴力を喰い破ったバケモノそのものだ。


アタシの脳内から、遊びの(ドーパミン)が急速に冷えていく。


 『玩具』じゃない。こいつは、アタシが全力で殺さなきゃいけない『敵』だ。


 アタシは、一切の表情を消した真顔のまま。低く、地を這うような声で、目の前の異常者の細い首をへし折るために、ただ一言だけを紡ぎ、一歩を踏み出した。


「……死ね」


 ――だが、アタシの拳がその首に届く直前。


 コロッセオの上空に展開されていた、巨大なホログラムモニターが、連続してシステムアナウンスを弾き出し始めた。



《タイムアップ。決戦フェーズ、終了》



 コロッセオに、終了のブザーが鳴り響いた。


 床には、アタシが全滅させた帯島を含めた第三階区の武断派9人が、白目を剥いて転がっている。


 アタシは雨宮から視線を外し、彼らを見下ろし、凶悪な笑みを深めた。


 誰が糸を引いているのかは知らない。


 だが、この退屈な学園で、雨宮含めて、アタシを利用するほどの胆力を持った奴がいるなら、そいつはいい遊び相手になる。



《【コロッセオ】特区の最終リザルト。第三階区 合計値【 マイナス1850点 】/ 第五階区 合計値【0点】》

《判定 第五階区が【コロッセオ】を制圧》



 アタシは、荒く深呼吸をしながら自分の端末を開き、個人口座の残高を確認した。



《八神燐花・個人口座残高 5000万R》



「……はっ。1Rも減ってねぇ。アタシだけの勝利だなぁ」


 アタシは、無残にマイナス表示された自階区のスコアなど見向きもせず、端末をポケットに放り込んだ。


『……っ、燐花ァ……!』


 インカムから、切島の血を吐くような、絞り出すような怨嗟の声が聞こえる。


「悪いな切島ぁ。テメェの組んだルールのせいだ。恨むならその『効率ばかり気にする三流の頭』を恨みな」


 アタシはインカムの電源を物理的にへし折って通信を断ち切り、静寂が訪れたコロッセオの出口へと向かって、悠然と歩き出した。


 さあ、次はどこのどいつが、アタシの退屈を紛らわせてくれるんだ?


※ あとがき


 次回・第33話【天堂璃王】魔王のネタバラシ


 ――サロンで優雅に紅茶を飲む魔王は何を思う?


 盤上廻です。

 お読みいただきありがとうございます!

 組織の赤字を避けるために、個人の2500万Rを捨てろ?……そんなインテリの『全体最適』が、天才の『資本主義的エゴ』によって粉砕される瞬間でした!

 もし『切島のダミールールが最高の自爆スイッチになった!』『燐花の暴走ざまぁ!』とスカッとしていただけた方は、ぜひ画面下の【★★★★★】ボタンを押して、第5階区の勝利を祝福してやってください!」


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