第48話:空白の海図、あるいは知のパッキング
王国軍による補給基地の建設が間近に迫り、独立都市エトワールの静寂は刻一刻と削り取られていました。
図書館という「人類の記憶」を守るため、ショウたちは前代未聞の引っ越しを決断します。
ガリウスが提案したのは、疫病で滅びたとされるドワーフの旧村。
「どこに移動するか……みんなの知恵を貸してくれ。この世界のどこかに『空白の地』はないか?」
ショウの問いかけに、図書室の重苦しい空気が一瞬だけ固まった。
エリオが地図を広げ、王国軍の進軍経路を指でなぞる。中継基地が完成すれば、この図書館も安全でなくなるのは時間の問題だ。
その時、パイプの煙を深々と吐き出したガリウスが、ひび割れた声で口を開いた。
「……わしの家がある場所。あそこは昔、腕利きのドワーフが集う賑やかな村でな。だが、昔に流行った原因不明の疫病で村人は全滅し、今や誰も寄り付かん呪われた地じゃ。わしだけが地上近くの岩屋に、隠れるように住んどる」
「ドワーフの旧村……。でも、そこなら王国軍の追跡を振り切れるのか?」
「村の古い言い伝えがあってな。あそこの地下には、天に届くほどの宝を秘めた『古代の都』が埋まっておると言われとる。実際、わしも若かりし頃に何度か掘り進めようとしたが、そこにはな……」
ガリウスが、傍らで浮遊するT3を指差した。
「こいつと同じ、鉄よりも硬く、魔力も通さん奇妙なブロックが壁となって道を塞いでおったんじゃ。わしの自慢のツルハシも火花を散らして折れる始末。ひょっとしたら、あいつの親戚がそこに居座っておるのかもしれん」
その言葉に、小型モードのT3が反応し、表面の回路を青く激しく明滅させた。
『――その証言、論理的整合性が極めて高いです。記録を再構成します。……元々、我らテトラテラーテラー(T3)は、戦略的分散として世界5カ所に建造され、来るべき「神殺し」の刻を未来へ託しました』
「5カ所のT3……。じゃあ、王都以外にも拠点があるのか」
『肯定します。それぞれの拠点にはリリティアシリーズが配置されています。王都地下は計画の主導者が眠る最重要の中枢ですが、他の4拠点には、現在の私たちが欠落させている予備データや、異なる専門分野の記憶が保存されているはずです。……もしガリウス様の故郷に同胞がいるならば、私のシステムを完全なものにアップデートできるかもしれません』
「決まりだな。リリティアの仲間がいるかもしれないなら、行く理由は十分だ」
ショウの決断に、リリティアが心細げに、しかし期待を込めた瞳で頷いた。
移動先が決まれば、次は時間との戦いだ。
「T3、第1回目の引っ越し荷物を積み込もう。王都から持ち帰った禁書と、ここの貴重な原本を最優先だ」
『了解。……収容プロセスを開始します。グラウンド・テラー、内部区画を「物流形態」へ移行』
合図と共に、T3のブロックたちが一糸乱れぬ動きで整列を開始した。彼らは自らの体を連結させ、本棚の奥深から要塞のハッチへと続く、波打つ「生きたベルトコンベア」を形成したのだ。
「……なんて効率だ。一人で運んだら一か月かかる量を、あっという間に……」
ショウは感心しながらも、その場に立ち尽くしてはいなかった。彼は【神速】の指先を動かし、糸で箱を作り、運ばれていく荷物の箱一つ一つに、概念を絡ませていく。
【概念:軽量化】
【概念:衝撃吸収】
【概念:防虫防カビ】
ステータスは「1」だが、ショウの仕立ての技術が「裁縫の極致」に達していた。箱は重さを失ったかのように浮かび上がり、T3のコンベアの上を滑るように進んでいく。
エリオが禁書を仕分け、シノが周囲の警戒に当たり、ショーベルが荷物の固定を手伝う。その連係プレーにより、12時間もかからず、図書館の重要区画のパッキングは完了した。
「……よし、第1陣の積み込み終了だ。ガリウスさん、案内を頼む」
「ああ、任せておけ。……まさか、自分の家に戻ることがあるとは思わなんだわい」
グラウンド・テラーが再び四本の巨大な脚をせり出し、音もなく立ち上がる。
夜の帳に紛れ、神の糸で作った超巨大な隠蔽マントが要塞を覆い隠す。
「出発だ。……俺たちの『本当の家』を作りに行こう」
29歳、成人男性。
歩く煉瓦倉庫が、再び重厚な一歩を踏み出した。
地響きさえも隠蔽の裏地に隠し、一行はドワーフの廃村――第2の神殺し拠点へと向けて進軍を開始した。
第48話をお読みいただきありがとうございました!
ガリウスの故郷に眠る謎のブロックと、世界に散らばる5つのT3。
ついに「神殺し計画」の全貌が世界規模へと広がり始めました。
二往復の第1回目が無事に完了し、一行は未知の遺産が眠る地へと向かいます。
いつも応援ありがとうございます!次回、お楽しみに!
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※AIとの共同執筆作品となります。




