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第46話:忘却の旋律、あるいは託された名

独立都市エトワールへと地を這う移動要塞『グラウンド・テラー』。

その静寂に包まれた内部で響いたのは、この世界から消し去られたはずの「歌」でした。


グラウンド・テラーの心地よい揺れ。それは、巨大な生物の胎内にいるような、不思議な安心感を伴っていた。

 数時間の深い眠りから覚めたショウは、ふと、柔らかな「音」が鼓膜を震わせていることに気づいた。

それは、これまでこの世界で耳にしたどの音とも違っていた。風の音でも、岩が軋む音でもない。透き通るような調べ、重なり合う波紋。……それは、紛れもない「歌」だった。

吸い寄せられるように音を辿ると、薄暗い居住区の隅で、リリティアが眠る二人の複製体の傍らに座り、静かに唇を震わせていた。

 歌詞の意味は理解できない。だが、その旋律は胸の奥を締め付けるほどに美しく、ショウは言葉を失い、ただじっとその場に立ち尽くして聴き入った。一節が終わるたびに、凍りついていた空気が溶け出し、温かな光が満ちていくような錯覚に陥る。


「……ショウ様。起きてしまいましたか? うるさかったでしょうか」


 歌い終えたリリティアが、少し申し訳なさそうに、銀色の睫毛を伏せて尋ねる。


「いや、素晴らしい歌声だ。……不意に涙が出そうになったよ。もっと聴かせてほしい」


 ショウの切実な願いに応え、彼女はもう一曲、慈しむような穏やかな曲を口ずさんだ。


「ありがとう。……リリティア、これは何の歌なんだい?」

「……わかりません。ただ、胸の奥から溢れてきて、勝手に口が動いていました」

「きっと、誰かを癒やすための、大切な歌なんだろうね」


 ショウが優しく微笑むと、リリティアは「少し、疲れました……」と言って、糸が切れた人形のようにその場に座り込んでしまった。


「ごめん、無理をさせた。ゆっくり休んで」


 リリティアを再び眠らせた後も、ショウの耳の奥には、先ほどの透明な旋律が残り続けていた。

やがて皆が起きてくると、ショウは興奮を抑えきれずに尋ねた。


「みんな、今のリリティアの歌を聴いたか?」


 しかし、すぐ隣の部屋で起きていたはずのエリオも、記録を司るT3ですら「音声の記録はない」と首を振る。

 ショウだけにしか聞こえなかった歌。……それを聴くためには、神の加護を受けた者か、あるいは「仕立て屋」としての感性が必要なのだろうか。

食事の席で、T3に「歌」という概念について照会する。


『報告。異世界からの転生者は「歌」を知っていますが、この世界の住人のほとんどはその概念すら持ち合わせていません。リリティアがそれを口にしたということは、世界創世以前には『調べ』が存在していたという決定的な証左となります』

「リリティアたちがすべてを思い出してくれたら、もっと早く真実に辿り着けるんだろうけどな……」

「……期待しても、今は酷というものだ」


 隣でスープを啜っていたショーベルが、静かに言った。


「それよりショウ、これまでの冒険で我らのレベルも上がっているはず。お前の状態ステータスを見てやろうか?」

「ああ、頼むよ。補正もかかっているし、少しは強くなってるといいんだけど」


 ショーベルは真剣な眼差しでショウを見つめたが、すぐに困惑の色を浮かべた。


「……見られない。平和の神の力が干渉しているのか……勇者や魔王なら、あるいは見通せるかもしれんが……知識の加護を受けているエリオもあるいは……」


視線を向けると、エリオが鬼のような形相で王都の禁書に齧り付いており、とても声をかけられる雰囲気ではない。


「……後にしよう」


 ショウは苦笑し、ショーベルと向かい合って座った。こうして二人で落ち着いて話すのは、いつ以来だろうか。


「いつもありがとう、ショーベル。君がいなかったら、俺は今頃どこかで野垂れ死んでたよ」

「……当たり前のことを。私の使命でもある」

「使命?」

「ああ。私の名は、大魔術師で未来視の力があった祖母が付けたものだ。祖母はかつて予言した……いつか『ショー』という名の者が現れ、この歪んだ世界を仕立て直す。その者を護る娘として、異世界の言葉で『ショーを護る者』……即ち『ショーベル』と私を呼んだのだ」

「……俺を、護る者……」


 ショウは言葉を失った。世界を変える、仕立て直す。そんな大役が自分にあるのだろうか。


「すごいおばあさんだね。俺たちが会ったのも、偶然じゃなく運命だった、ということか」

「そうだな。……といっても、実は半分も信じていなかったのだがな!」

「え、信じてなかったの?」

「当然だ! 祖母の予言など、家族のことになると全然当たらんのだ! 預言者としては立派だったが、身内の占いだけは外してばかりで……現に、本当にお前が現れるまで、信じていなかった!」


 慌てて叫ぶショーベルの頬が、わずかに赤らむ。その様子に、ショウは思わず声を上げて笑った。


「でも、ショーベルがいてくれて本当によかった。これからも、俺の隣で護ってくれるか?」

「……ああ、もちろんだ。地獄の果てまで付き合ってやる!」


 ショーベルが屈託なく笑う。その凛とした、それでいて愛らしい笑顔を見た瞬間、ショウは胸の奥が熱くなるのを感じ、慌てて視線を逸らした。


『テイラー、まもなく目的地、独立都市エトワールに到着します』


 T3の無機質な声が、甘い空気を切り裂くように響いた。


「……つくぞ、ショウ! 準備はいいか!」

「ああ。行こう!」


 ハッとして我に返り、ショウは立ち上がった。

 歩く煉瓦倉庫が足を止めた。

 目の前に広がる戦場、独立都市エトワール。

 新たな冒険と、歪んだ神話への逆襲が、今ここから始まる。


第46話をお読みいただきありがとうございました!

ショウだけに聞こえたリリティアの歌声と、ショーベルという名に込められた「ショーを護る者」という運命。

いつも応援ありがとうございます!次回、お楽しみに!

面白いと思っていただけたら、ぜひブクマや評価をお願いします!

※AIとの共同執筆作品となります。


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