表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/50

第35話:一針の静寂、あるいは去りゆく軍靴

去りゆく軍勢を見送ったショウたちの元へ、地下からエリオとガリウスが駆け上がってきます。

彼らが地下2階の禁書から見つけ出したのは、勇者権三郎が語る「輝かしい伝説」を根底から覆し、世界そのものを疑いたくなるような、残酷な真実でした。


心臓の鼓動が、耳元で早鐘のように鳴り響く。

 監視塔の瓦礫の隙間から、冷や汗を流しながら眼下を見下ろすと、馬に乗った一人の斥候が、俺たちが入り口として使っている「ただの岩に見える幻覚」のすぐ側まで歩み寄っていた。


「……おい、止まれ。……なんか違和感ないか?」


斥候の呟きに、俺の背筋が凍りつく。

 彼らは勇者権三郎の「歌」によって魔力を微増させており、その感覚は平時の兵士よりも遥かに鋭くなっている。俺は震える指先に全神経を集中させ、空中にピアノ線のように張り巡らせた「概念の糸」を、目に見えないほど細かな周波数で震わせた。


(……見るな。ここには何もない。お前たちが見ているのは、数百年放置されたただの石塊だ……!)


付与したのは、【概念:忘却】。

 彼らが一歩踏み込もうとするたびに、その脳内に「目的地はここではない」「用件は済んだ」という誤認を強制的に縫い付ける。それは魔法というより、精神の糸を無理やり絡め取るような、極めて繊細で危うい作業だった。


「……ただの石山だろう。勇者様の歌が響きすぎて、お前の耳がおかしくなってるんだよ。さっさと本隊に合流するぞ」


もう一人の斥候が鼻で笑い、馬の首を叩いた。あと数センチ、斥候が馬から降りて岩に触れていれば、俺の「認識の偽装」は物理的な感触によって弾けていただろう。

やがて、地平線を埋め尽くさんばかりの軍勢が、巨大な銀色の蛇のように街道をうねりながら通り過ぎていった。鎧の擦れる音、無数の蹄の音が、地響きとなって塔を揺らす。

だが、その背中を見送る俺たちの心は、晴れるどころか深淵を覗くような暗い予感に満ちていた。


「……解せんな。勇者の剣を奪われ、文字通り手も足も出ないはずの王国軍が、なぜこれほどの総力戦を仕掛けている?」


ショーベルが窓枠を握りしめ、苦々しく吐き捨てる。望遠鏡に映る王国軍の顔ぶれには、敗残の影など微塵もなかった。

 彼らは皆、法悦に満ちた目で前方を見つめている。何か絶対的な、死をも超越した勝利を確信しているような、異様な高狂感が軍全体を覆っていたのだ。


「剣を取り戻す算段があるのか、あるいは……魔王を倒す『別の秘策』があるのか」


俺の言葉に、場が重く沈む。

 平和を謳う勇者が率いる万の軍勢。彼らが目指す先には、かつて俺が「一着の服」を届け、平和への僅かな約束を交わした魔王の城がある。

 俺たちはただ、嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。


「ショウさん、ガリウス先生……とんでもないことが分かりました。……歴史が、最初から塗り潰されていたんです」


地下から駆け上がってきたエリオとガリウスの顔は、死人のように蒼白だった。

 ガリウスが抱えている一冊の、血のシミのような汚れが付着した古文書。それは、知識の神の使徒であるエリオが、直接その目で触れることでしか開けなかった「禁書」だった。

そこに綴られていたのは、俺たちが子供の頃から聞かされてきた「公式の伝承」とは似ても似つかない、あまりにも凄惨で泥臭い記録だった。

伝承では、勇者パーティーの仲間三人が魔王の前に斃れ、残された勇者がその遺志を継ぎ、一人で魔王を討ったとされている。

 だが、事実はその真逆だった。


「……実際には、勇者が先に魔王に敗れ、殺されていたんです。そして残された仲間三人――戦士、魔導士、僧侶が、絶望の中で命を賭して魔王を討ち取った。それが真実です」

「なんじゃと!? では、あの玉座の間に刺さった勇者の剣はどうなった?」


 ガリウスが怒りと混乱に震えながら叫ぶ。


「……三人は、勇者の剣を抜こうとしました。しかし、勇者しか扱えない聖剣はその機能を停止し、誰の手にも抜けなくなった。彼らは重傷を負った体で、剣を置いたまま王都へ帰還しようとしたんです。ですが……」


エリオがページをめくる手が止まる。


「その帰還の途中で、今の魔王が異世界から召喚された。弱り切っていた三人は魔王の追手に襲われ、死を悟った。彼らは近くの農夫に『ある手紙』を託し、王都へ援護を求めたのですが……その農夫が辿り着く前に、三人は無惨に殺された。……王国の公式記録は、勇者が魔王を倒したことに書き換えられたんです」


三人が魔王を倒した方法は、当時の教会のトップによって【神を否定する、禁じられるべき方法】として封印され、あらゆる書物から抹消された。農夫が届けたはずの手紙の中身も、今は行方不明だという。


「……つまり、今の王国、あるいはあの権三郎は、その『禁じられた倒し方』を掘り返して魔王の元へ向かっている可能性がある」


俺の中で、最悪の予感が現実味を帯びて膨れ上がる。

 権三郎が勇者の剣に固執せず、あれほどの大軍を引き連れて進軍している理由。

 それは、勇者の力に頼らずとも、初代勇者ですら成し遂げられなかった「絶対的な抹殺」を成し遂げるための、神さえも恐れる術式を手に入れたからではないか。


「ガリウスさん、エリオさん。石板の解読は続行してください。……俺たちは、その三人が使った『禁じられた方法』。これを至急突き止めましょう。必要なら王都に行くしかないか……」


29歳、成人男性。

 歴史の嘘を暴くだけじゃ、何も救えない。

 俺は神の糸を指に巻き、静かに決意を固めた。

 平和のための仕立てピース・テイラーの本当の仕事は、ここからだ。


第36話をお読みいただきありがとうございました!

明かされた勇者伝説の裏側。英雄として葬られた三人と、捨て去られた勇者の剣。

王国が狙う「禁断の秘策」とは一体何なのか?

いつも応援ありがとうございます!次回、お楽しみに!

面白いと思っていただけたら、ぜひブクマや評価をお願いします!

※AIとの共同執筆作品となります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ