第34話:迫りくる軍靴、あるいは聖域の偽装
地下2階の禁忌に触れたショウたち。エリオはショウの服で魔力を補完し、ガリウスと共に「石板」と「魔導書」の照合という、世界の根源に迫る作業に没頭します。
地下2階の空気は、知識の熱気と古びた魔力の残滓で濃密に満ちていた。
エリオは『多重演算』を維持しながらも、特定の数冊の魔導書や、禍々しい装丁の禁書の前で足を止めた。
「……ショウさん。やはり、知識の神の権能があっても、『禁書』や『魔導書』は直接触れて、自分の目で読まないと知識がリンクしません」
エリオの言葉に、ガリウスが分厚いレンズ越しに目を光らせ、深く頷く。
「なるほどな。ワシの石板解析のデータと、その禁書の記述……どうやら、最後のパズルピースが揃いそうだぞ。二人で集中的に叩こう。ショウ、しばらく時間をくれ。……ここを動かんぞ!」
二人の天才が、まるで何かに取り憑かれたように「謎」の正体を探り始める。その異様なまでの集中を邪魔しないよう、俺は静かに背を向け、地上へと戻った。
しかし、地上で俺を待っていたのは、安らぎではなく、胃を掴まれるような緊迫した報告だった。
「――ショウ、来たぞ。最悪のタイミングでな」
ショーベルに促され、俺たちは古代図書館の最上階……今は瓦礫と幻覚魔法でカモフラージュされた監視塔へと上がった。
望遠鏡を覗いた俺の指が、思わず震える。
独立都市エトワールを縦断し、ノクターナ魔王国へと続く広大な街道。そこを、地平線を埋め尽くさんばかりのゼラ・ルミナス王国の軍勢が進軍していた。銀色に輝く鎧の波、たなびく無数の軍旗。その数、数千……いや、万に近い。
「あいつら、あの人数で魔王国を叩きに行くつもりか……?」
「それだけではないだろうな」
ゼスタが窓枠を握りしめ、苦々しく吐き捨てる。
「見てみろ。あの軍勢の中央……ひときわ派手な黄金の馬車と、あの大音量のスピーカー。ここまで耳障りな『パクリ歌』が響いてくる。権三郎だ。あの勇者、ただの進軍じゃない。魔王軍に『自分のファン』を、つくろうとしているんだ」
その時、図書館の周囲に数騎の馬影が現れた。
王国の斥候部隊だ。彼らは馬を止め、瓦礫の山に偽装されたこの図書館の入り口付近を、不気味なほどじっと見つめている。風に流される砂の音さえ聞こえるほどの静寂の中、彼らの視線が鋭く「そこ」を射抜こうとしていた。
「……気づかれるか?」
ギルガスが巨大な斧の柄をミシリと鳴らし、いつでも飛び出せるよう腰を落とす。
外から見れば、ここはただの戦跡、あるいは崩れた石山の影。だが、神の力を借りた勇者の加護を受けている連中なら、この空間に漂う微かな「違和感」に気づいてもおかしくない。
「動かないでください。……息も、殺して」
俺は神速で指先を動かし、図書館の最外周に張り巡らせた神の糸に【概念:忘却】と【概念:風景同調】を付与した。
「俺が縫い上げた『不可視の境界線』です。彼らの視線がこちらを捉えても、脳が『ただの瓦礫だ』と強制的に認識を修正するように細工しました。……でも、限界があります。万単位の軍勢がここを完全に包囲すれば、物理的な接触……つまり、誰かがここに『つまづく』だけで全てが露呈する」
眼下の街道を、巨大な龍の如くうねりながら進む銀色の鎧。
偽りの平和を謳う勇者が、本当の平和を慈しむこの場所を蹂躙しようとしている。
29歳、成人男性。
全ステータス1の俺にできるのは、この針一本で、彼らの「認識」を縫い合わせることだけだ。
ホームを守るための、絶対に負けられない「究極の隠れん坊」が始まろうとしていた。
第34話をお読みいただきありがとうございました!
地下での命懸けの研究と、地上を埋め尽くす万の軍勢。
ついに権三郎の魔手が、絶対聖域・エトワールへと伸びようとしています。
いつも応援ありがとうございます!次回、お楽しみに!
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※AIとの共同執筆作品となります。




