番外編2 中編〜ミコンノママハハ2〜
やっと時代が現代に戻ってきました。
番外編2の前半あたりです
それから娘達がニートになったり舞踏会でゲーム大会したり……まあ色々あったけど、長女が結婚することになった。
今日は、人生で最高の日だ。
そう思いながら式場に向かっていたら、空から、彼が降りてきたのだ。
あの時のローブを着て、あの時は乗れなかった箒に跨って……
私は思わず彼の手を引いて、自宅に連れてきてしまった。
「ちょっとー、そんな風にローブ引っ張ったら首苦しいよ」
「うるさい!!そんなら本当に首絞めてやろうか!?」
家の中にひとまず入れ、手を離す。改めて正面から彼を見る。居なくなってから20年以上経ったけど、見間違えるはずがない。本物の彼だった。
「……本当に、久しぶりね。魔法使いさん?」
「……前みたいに名前で読んでよ」
「お前の名前なんか忘れた」
何度も呼んだのに、1回も返事のなかった名前。もう今更、呼んでやるつもりは無い。
ヤカンにお湯を入れ、火を付ける。
「茶くらいは入れてやる。適当に座りな」
彼は肩をすくめながら、写真立てを手に取った。
「まさかシンデレラが君の娘だったとはね……2人とも女の子で、お転婆ながらも可愛く育ったじゃないか」
「まあね。自慢の娘達だよ」
「ところで、あの子達の父親って……」
「お前には関係ない」
「……そっか」
彼以外の男を考えたことなんか、この20年間の中で一瞬だってなかった。そう言いそうになるのを、ぐっとこらえる。彼に教えてやる義理なんか無いんだから。
「……魔法は本当に使えるようになったみたいね。昔からの夢が叶ってよかったじゃないの」
「まあね。空も飛べるし、杖を振れば何でもできる。期限があるのはこれから克服しなくちゃいけないけどね」
「ほー。すごいじゃないか。まあ、そうだよね。貴方が一番楽しいと言っていた時間を捨ててまで行った程だからね」
「そ、それは……」
「もしかしたら一番楽しいと言っていた事自体が嘘だった、なんてこともあるかもしれないけど」
「それは違う!!!!!
君の事は、本当に、本当に愛していたんだ。いや、今も変わらない。愛している」
ガタンと音を立てながら勢いよく否定する彼を見て、心にモヤがかかるのを感じた。
20年間、放っておいて、今更何を言っているのだろうか。
「嘘つき」
「嘘じゃない!!」
彼が立ち上がり、肩を掴まれた。
頬を全力で引っぱたく。
「どうしたらいい……?どうしたら、この想いが伝わるのかな……」
「もう遅いんだよ、何もかも。私達はそれぞれ別の道を歩き始めたんだ。私は、あの子達の親として。お前は、魔法使いとして。それで終わりだ。
この道は、もう交わることは無いんだよ」
ヤカンの音がしたので台所に戻る。紅茶を少し濃いめに作り、砂糖を三杯。もう一つのカップは砂糖を二杯。お盆に乗せてリビングに戻る。
「茶が用意できた。とりあえず座りな」
彼にマグカップを差し出しながら、自身も座って紅茶に口をつけた。
「元カノである私からお前に言いたかったのはここまでだ。……そうだな、それじゃあ、ここからは友人として話を聞こうか。魔法使いになれた経緯とかな」
彼は小さな声でぽつぽつと、魔法使いになった経緯をゆっくり話し始めた。その説明の仕方が、昔勉強を教えていたあの声と同じで、なんだか少し懐かしい気持ちになったのは、彼には絶対に言ってやらない。
「とまあ、そんな訳でシンデレラに会ったんだ」
今更ながら、シンデレラがなぜ舞踏会の日に新品のドレスでやってきたのか、そして帰宅後はボロボロの服で帰ってきたのか、ずっと疑問だったことがようやく晴れた。
「ところで結構話しちゃったけど……結婚式、行かないの?」
「!!!!!」
しまった。怒りに夢中で娘の結婚式をすっぽかす所だった。シンデレラ達と別れてからもう1時間以上経っている。
「こうしちゃいられない!私はもう行かせてもらうよ!」
慌てて家を出た私の後ろから、箒に乗った彼が追いついてきた。
「もう、僕の職業忘れちゃ困るなぁ……ほら、いくよ」
「いや、一般的に魔法使いは職業と言えるのか怪しいんだが……というか、箒に乗って行ったら絶対に会場の人達驚くだろう」
「え、だってこっちの方が早いでしょ?」
「それはまあ、そうだけど……」
渋々と箒に跨ると、勢いよく出発した。振り落とされないように、必死に掴む。
広くて温かい背中に、懐かしい彼の香り。
それを胸いっぱいに吸い込むと、付き合ってた頃、2人で行った旅行先で自転車を借りて走った田舎道を思い出してきた。
魔法は使えないけれど、優しくて笑顔が似合ってた彼。それと、そんな彼が大好きだった私。
彼が魔法使いになりたいと言っていたのも、初めは冗談だと思っていたけれど、付き合っているうちに、彼なら本当に叶えるんじゃないかってと思ってた。そして、そんな夢を応援していたはずだ。あの頃の私に、「今の彼は魔法使いになった」と言ったら喜ぶだろう。
じゃあ、何で今は喜べていないのか……いや、別に今の私も喜んでいない訳ではない。夢を叶えた彼を素直に祝福できないだけで、本当によかったとは思っている。
じゃあ何が問題か……まあ、無言で私の前から消えた事だろう。
彼は男子にしては結構連絡をマメにくれるタイプだった。そんな彼から急に連絡が無くなって、目の前から居なくなった。あの時は本当に辛かった。体重も5kgくらい減った。だから、多分許せない。
でもこうして冷静に考えると、あんな連絡をマメにくれる彼が連絡が出来ないほど、急に魔法使いの弟子になったのかもしれない。彼の話では師匠もなかなかに頑固で変人だから、電子機器類を一切触らせてくれなかったのかもしれない。もし「私と一緒にいるために魔法使いになるのを諦めた」と言われたら多分私は怒っていただろう。私の為に夢を棄てるのは阿呆だ、と。だから、彼が私よりを夢を追いかけたのは間違えてない。
それに、今向かっている結婚式の主役である娘だって、彼がいなくなってY○uTuberにならなかったら絶対出会えてなかった。娘達に出会えたのも、言い換えれば彼が魔法使いにならなかったら出会わなかったのだろう。
こうやって考えていくと、もしかしたら本当は、ただ私がわがままを言っているだけな気もしてきた。
この箒が式場に着いたら、私達はもう二度と会うことは無いだろう。私と彼の道は完全に離れ離れになる。
彼がいつか帰ってくるかもしれないだなんて思って今日まで引越しだってしていていなかったくせに、実際に彼に会ったら感情的に彼を突き放した私が悪いから。
頬に涙が伝ってきたのを、全力で擦る。私に泣く資格はない。
歩いて30分以上かかる道は、彼のおかげで10分かからずに着いた。勿論警備員を驚かせてしまったが、シンデレラがなんとか言いくるめてくれたようだ。
「義母さん遅すぎ!もう、どんだけ話してたの?もう1時間を軽く過ぎてるんだけど!」
「ちょっと色々話しててね……ああ、やっとあの子のウエディングドレス姿が見られるよ」
ウエディングドレスを着た娘を見つけ向かうと、あの子もこちらに駆け寄ってきた。白を基調とした、とても可愛らしいウエディングドレスだ。いつものいたずらっ子は、今日はどこかへいったらしい。表情は喜びに満ち溢れていて、この子にとても似合っていた。
「遅くなってすまなかったね。……すごく綺麗だよ。流石私の娘だ」
「お母さま……!」
涙ぐむ娘に、肩を抱きながら私をしっかりと見つめてくる新郎。
「娘さんは、私が必ず幸せにします!」
「ああ、頼んだよ」
力強く宣言する新郎に、安堵の息が出た。
ふと後ろを振り返ると、彼はもういなかった。
最後のさよならは、また言えなかった。
次で終わります!(多分)




