第9話 少年、頭を撫でられる
魔剣アトロポス(今はギターの姿をしているけど――)と出会ったアニエルは、その日の夜、手頃な空き地で夕食の準備を始めた。
その最中、一角兎を見つけたので、アニエルは『気』を全開にしてその魔物をショック死させる。そして小剣を使い、器用にさばいた。
解体が終わると、背負っていたリュックサック(魔力により無限収納が付与された貴重な魔道具――)から鍋と木のスプーンを取り出し、一角兎の肉を道中で摘み取った香草を加えて煮込む。
その手際の良さに魔剣アトロポス――アトは感心する。
「まだ若いというのに、大したものだな」
「ん? まあね。父さんとふたりで遠出ばかりしていたから、野外で料理をするのに慣れてしまったんだ」
なるほどなと思うアト。
最後に少量の岩塩を加えて、木の器にそれを移し替えた。
いい匂いが魔剣にも届いていた。
鼻もないのに匂いがわかるのか?
――というツッコミは禁物である。
「ずいぶんとおいしそうだな。吾にも食べさせてはもらえぬか?」
アトがそんなことを言うので、アニエルは怪訝な顔になる。
「食べるって、どうやって?」
「こうするのだ」
すると、ギターが赤毛の美しい女性に変化するではないか!
「うわっ! なんだぁ!」
驚くアニエル。
「これは、吾が人間だった頃の姿だ。どうだ、美しかろう?」
美女となったアトが少年に向けてウインクする。
「うん! ボクの母さんと同じくらい美人だ!」
アニエルがそんなことを言うので、アトは「ハ、ハ!」と声を出して笑う。
「そうかそうか。オマエの母親も、さぞかし美しいのだろうな」
「まあね。実を言うと、母さんのことはあまり覚えていないんだ」
「――えっ?」
アニエルが六歳の時、母親は家を出て行ったらしい。それ以来、会っていないとのこと。
「――そうか」
アトは少年の横に座り、頭を撫でる。
「な、なんだよ、急に」
恥ずかしがるアニエル。
「なあに、吾がオマエの母親代わりになってやろうと思ってな」
「いいよ。ボクはもう十五だよ。そんなことされても嬉しくないから」
少年に拒否されると、アトはクスッと笑った。
「そうか――そうだな」
それから、ふたりで一角兎のスープを口にした。




