第8話 少年、旅の友を手に入れる
少年が欲したモノは、魔剣でも、その他のどんな素晴らしい武器でもなく……『ギター』だった。
「そのう、吾の認識では……ギターは楽器だと思うのだが?」
「うん、そうだよ」
訳がわからない。なぜ、魔剣である自分が楽器にならなければならないのだ?
「なれないのなら、別にイイや」
彼が再び背を向けるので――
「ま、待て! なれぬとは言っておらぬ!」
「じゃあ、なれるの⁉」
少年が戻ってきて尋ねる。その顔が無邪気で愛らしかったので、魔剣の柄の部分に取り付けてあった魔石がほのかに赤くなった。
「まあ……なれなくもない」
すると、少年はムッとする。
「なれるの? なれないの?」
「なれる! なれるとも! ギターでもなんでもなれる! 故に、吾を抜け!」
もはや、何であってもよい。これほどの気力と魔力を持つ人間、もう二度と出会うことはないだろう。このチャンスを逃すわけにはいかないのだ!
少年は「仕方ないなあ……」とつぶやいたあと、魔剣を岩から抜き取る。
五百年、どんな風雨にもびくともしなかった魔剣が、彼の手によっていとも容易く岩から離れた。
(おおっ! 活力がみなぎる! これが、この少年の力だというのか!)
少年から伝わってくる魔力に、魔剣は酔いしれた。
やはり、この少年は本物だ――
「……おい」
魔剣が新たな主人を手に入れた喜びに浸っていると、少年が不機嫌そうに声をかける。
「ん? なんだ?」
「約束はどうした?」
「……約束?」
「ギターになるんだろ?」
「あ……」と、魔剣は呟く。そうだった。この少年は、自分を『剣』としてではなく、『ギター』として欲していたのだ。
「そのう、なんだ……やっぱり、ギターにならないといけないのか?」
次の瞬間、剣を持った少年の右手が大きく振りかぶった。
「待て待て待て! な、投げるな! 冗談だ! 今すぐなるから!」
少年は投げるのを止めると、不満そうに――
「だったら、早くなってよ。もし、ウソなら、今度はバキバキにへし折ってやるからな」
そう脅された。
魔剣となって七百年、自分の主人になった者は例外なくそのことを喜び、自分を大事にしてくれたというのに――
「はあ……」と魔剣は呼吸もしていないのに、ため息をついた。
ギターか……
魔剣の主人だった剣士にはギターを弾くことを嗜む者もいた。旅の間もギターを持ち運び、夜になるといつも自分に聴かせてくれたのだ。
それはかつての主人が所持していたギターの姿を思い出し、それに変化した。
「おおっ!」
少年はギターとなったそれに驚き、喜びの表情を見せる。
「スゴい! 本当にギターだ!」
あまりにも嬉しそうにするので、(まあよいか……)と納得することにした。
それにしても――
「なあ、少年。どうしてギターなんだ?」
魔剣(今はギターの姿をしているが――)が尋ねる。
「ああ。ボクが住んでいた村に吟遊詩人がやってきたことがあったんだ」
その時のギターの音色と彼の歌声が忘れられなくて、「もし冒険者になれなかったら、吟遊詩人になりたい」そう考えたらしい。
「ずいぶんと安直な思考だな」
少年はその言葉をスルーすると「ねえ、なんか弾いてみせて」と言い出す。
――は?
「いや……吾はギターであって、弾くのはオマエでは?」
「ボク、ギターを弾けないから」
――――――はぁ?
では、なぜギターを欲した?
「弾けないの?」
愛らしい少年が目を潤ませながら尋ねるので、それはキュンとしてしまう。
「弾ける! 弾けるぞ!」
「ホント!」
喜ぶ少年の顔を見て、また「はあ……」と溜め息をつく。もう一度言うが、呼吸はしていない。
魔剣は昔の主人が聴かせてくれた曲を弾いてみせる。
少年はそれを静かに聴いていた。
弾き終わると拍手される。
「スゴい! うん、感動した!」
まだ幼さが残る少年の表情に、魔剣はホッとする。
「吾は『魔剣アトロポス』、アトと呼ぶがよい。オマエの名前は?」
「ボクは、アニエル。アニエル・ウィルキンソンだよ」




