第41話 少年、知らない
ギターと勘違いしてアトを盗み出したミンファは、自分が吟遊詩人ではなく、泥棒だと白状する。だが、アトは「ただのシーフではないだろ?」と問い詰めるのだった。
ミンファは「はあ……」とため息をつくと、こう切り出す。
「ワタシはある下級貴族の娘として生まれたっす」
下級貴族ながら、音楽家を多く輩出している家柄で、両親も帝都ではちょっとした有名人だったらしい。
ミンファも幼い頃からピアノを習っていたそうだ。
「でも、ワタシが七歳の頃、父親がだまされて財産をすべて失ったっす。両親はそれを苦に自殺。ワタシは奴隷商人に売られたっす」
しかし、その商人が盗賊に襲われ、ミンファは盗賊たちに命を救われた。
「盗賊の頭領になぜか気に入られて、ワタシは娘同然に育てられたっす」
シーフとしての技量はその頃、身についたらしい。
「でも、その盗賊も衛兵と冒険者たちの合同部隊にアジトを襲われて――仲間が、ワタシだけ逃がしてくれたっすよ」
それからは、スリや窃盗を繰り返しながら生活してきたのだが、あるとき女冒険者に捕まってしまう。
「でも面白い人で、ワタシをそのまま冒険者パーティに加えてくれたっす」
シーフの技は冒険者としても有用だ――というのが、女冒険者の言い分だったのだが、つまるところ、ミンファを泥棒稼業から足を洗わせるように仕向けてくれたのである。
「それから五年くらい冒険者としてやってきたっすけど、盗賊にいた頃の私を知っている人物が現れて――それで、着の身着のまま王国まで逃げてきたというわけっす。ほら? つまらないっしょ?」
いや、充分に大変な人生だろ――と、アトは思ったのだが、それを口にすることはなかった。
「この指輪は、盗賊のアジトが襲われ逃げ出すときに、頭領だった人から貰ったっす。『オマエはいずれ、これが必要になる』なんて予言めいたことを言われて――だから、盗んだわけじゃないっすよ」
「なるほど……それじゃ、あの鍵盤楽器は?」
「あ、あれは……」と言いづらそうな顔をして……
「もともとは私の両親がコレクションにしていた楽器だったっす。でも、だまされて借金のかたに奪われた中のひとつで……」
たまたま入った骨董品の店で、それを見つけたらしい。
「要するに、盗んだわけだな?」
「まあ、そういうことになる……っすね?」
ヘラヘラと笑ってごまかそうとするミンファに、アトはヤレヤレと思う。
「――で? 吾を盗もうとしたのも、同じ理由か?」
「あ、バレたっすか? そうっす。アナタと瓜二つのギターが私の家にあったっす。それで、盗もうとしたんだけど……」
アトは「はあ……」とため息をついて――
「おそらく、そのギターは昔、吾の主が持っていたモノだ」
「――えっ?」
流れ流れて、ミンファの両親が所持することになったのだろう――そう、アトは推測するのだった。
「そう……なんすね」
世の中は広いようで、狭い……なんて、ありきたりな言葉をミンファはつぶやく。
「はい、ワタシの話はおしまい。それじゃ、殺すなり、衛兵へ突き出すなり、好きにするっす」
ミンファは、もう抵抗しない――と言いたげに、地面に横たわったままじっとしていた。
そんな彼女を見てクスッと笑い、アトは彼女を縛っていた魔法の縄を消去する。
「ちょっと、どういうつもりっすか? 私を逃がしてくれるっすか?」
「逃がす? そんなつもりはない。オマエにはこれからたっぷり働いてもらう」
働いてもらう?
なんのことか、わからないという顔をしていたミンファ。すると、草むらあたりでゴソゴソという音が聞こえてきた。
なんだろうと顔を向ける。草むらから現れたのは――
「ゴ、ゴブリン!?」
緑の肌に、下あごから突き出した牙、身長一メートルほどの魔物が現れた。
「働いてもらう――って、これを倒せということっすか?」
そう言って、ミンファは短剣を抜いた。
「いや、それは関係ない。それに、オマエにはちと荷が重いぞ」
「――えっ?」
そんな会話をしている間に、別の草むらからもガサガサと音が響く。
「ギギィ!」
「ギチチッ!」
不気味な鳴き声を上げながら、別のゴブリンが顔を出した。それも、四匹、五匹……と、瞬く間に増えていく。
「ちょ、ちょっと! 何匹いるっすか! まだ町からそんなに離れていないというのに、どうなってるっすか!?」




