第42話 少年、駆除する
アトを盗み出し、町の外まで逃げてきたミンファはゴブリンの群れに囲まれる。
その数、十匹を優に超えていた!
アトも「そうだな。これは異常だな」と言う。しかし、言葉とは裏腹に冷静だ。
「な、何をそんな悠長に言っているっすか? アナタ、魔女っすよね? だったら、なんとかしてほしいっす!」
「吾がか? どうしてだ? 吾は魔剣だから魔物に襲われることはない」
「なっ! 最初から、私を見捨てるつもりだったっすね!」
一瞬でも期待した自分が愚かだった――そうミンファは悔しがる。
「だから、勘違いするな。それは関係ないと、言っただろ?」
次の瞬間――
ゴブリンの頭が、一斉に飛び散った! それも、十匹以上いたゴブリン全部が――である。
「――えっ?」
頭を失った胴体はしばらく立ったままだったが、ドミノ倒しのようにバタバタと倒れていった。
「な、何が起きたっすか?」
目の前で起きていることが理解できず、ミンファは呆然としてしまう。
すると、「ミンファさん!」と呼ぶ声が耳に入った。
「アニエル……君? ど、どうしてココにいるっす?」
暗闇の中から、笑っている少年の顔が見えた。銀髪の少女もいる。
「そりゃあ、アトとミンファさんのニオイを追って来たんだけど?」
「オマエはイヌか!」
アニエルいわく、魔獣を探すために嗅覚を養ったそうだ。
「ウソ? ワタシ、そんなに臭うっすか?」
慌てて、自分のカラダをクンクンと嗅ぐミンファ。
「オマエも気にするところはそっちじゃないだろ?」とアトは呆れる。
「それより、ミンファさん、ありがとうございます」
「えっ? どうしてアニエル君がお礼を言っているっす?」
助けてもらったのはこっちなのに……そう思うのだが――
「えっ? だって、寝ぼけて外に出歩いてしまったアトを見つけてくれたんでしょ?」
「――はい?」
寝ぼけて外に出歩いてしまったって……
「おい、こら! 吾はそこまで老いぼれておらんわ!」と、アトが怒る。
「認めたくないのはわかるけど、それが現実だから。仕方ないよ。みんな、そうなるらしいよ」
アニエルは古の魔女をそうやって慰める。
「だから、人の話を聞け」
何か違った方向へ向かっている気がして、ミンファは話に割り込む。
「そうじゃなくて――ゴブリンを倒したのはアニエル君っすよね?」
「ん? ああ、それね……『ゴブリンはすぐに増えるから、見つけたら駆除しなさい』って、父さんに言われていたから」
「えーと、何の話をしているっすか?」
ゴキブリじゃなく、ゴブリンなんだけど――そう、ミンファは思う。
「なんか、問題あった?」
「問題なんてないっすけど――じゃなくて、どうやって倒したっすか!?」
見たところ、アニエルは武器らしい武器を持っていない。
「どうやって……て? だから、こうやって手で叩いて――」
アニエルは手をパタパタさせる。
だから、ゴキブリの話じゃないっすよね? ゴブリンっすよね?
ミンファはますます混乱してしまうのだが、アトに肩をポンポンと叩かれる。
「アニエルと真面目に話をしようなんて思うな。頭がおかしくなるぞ」
アトは真剣な顔で、ミンファに言う。
シシリーもなんとも言えない顔をしていた。
「ハ、ハ、ハ……」
ミンファはチカラなく笑う。
「おい! 今、ボクをバカにしただろう?」
アニエルが怒ると、「だったら、もっと真面目に会話しろ!」とアトは言う。
「なんだよ! ボクはいつも真面目だよ!」
「オマエは、存在自体が不真面目なんだ」
「どういう意味だよ!」
このふたりを見ていると、悩んでいた自分が、ちょっとバカらしく思えてきた。
「とにかく、ミンファさんが無事でよかったです」
シシリーは、青髪の娘の手を取る。
「いや、だから、私は泥棒なんすよ!」
「――知ってますよ」
「――えっ?」
ミンファの身のこなしから、アトはすぐにシーフではないかと感づいたらしい。それで、シシリーには伝えていたそうだ。
何を企んで自分たちに近づいてきたのかわかるまで、ふつうのギターのフリをするから、シシリーにはそのように自分を扱え――そう指示していたのである。
「だったら――」
「えっ? ミンファさん、シーフなんですか!?」
今度はアニエルが驚いている。
「だまして、ゴメンっす」とミンファは謝るのだが――
「へ? どうして謝るの?」とアニエルは理解できていない――という表情だ。
「ちょっと、シーフの意味、わかっているっすか?」
ミンファはそう言うのだが――
「もちろん! 父さんの友人にシーフがいたから! 『金庫に閉じ込められた宝石たちを救い出すのが仕事――』って、その人は言ってた! カッコイイよね!」
金庫に閉じ込められた宝石たちを救い出す……?
「――いや、間違ってないかもしれないけど……いや、間違っているっすよね?」
なんか、もうどうでもよくなってきた。
「さあ、帰りましょ? 私たちの宿へ」
シシリーの声で、全員、町へと戻るのだった――
こうして、吟遊詩人のパーティはまたひとり、メンバーが加わるのである。
翌日、よりボリュームアップした楽曲を披露しよう――と準備していたアニエルたちだったが、その前に、市場のある広場は大騒ぎになっていた。
朝一番で、王国軍が到着したのである。
「このブラバドは軍の指揮下に入った! 今後、軍の許可なしに町から出入りすることを禁じる!」
「――!?」




