第40話 少年、騙される
真夜中に宿から抜け出したミンファ。こっそり『ギター』を持ち出し、町の出入り口までやってきた。
夜、町は大きな柵で封鎖されているのだが、ミンファは「よっ!」と飛び越える。
「さあて、もう大丈夫っすね」とミンファは手にしたギターを見る。
「フ、フ、フ……間違いないっす。これは、あのギターっす。やっと、取り戻せたっす」
ニヤニヤしながら、誰もいない夜道を駆け出した。
「さて、逃げてきちゃったっすけど、王国の地理はよくわからないっすのよね。まあ……なんとかなるっす」
そんなことをつぶやいていると――
「ほう……ということは、オマエ、王国の人間ではないのだな?」
「――――――――えっ?」
突然、女性の声が聞こえ、ミンファは立ち止まる。慌てて辺りを見回した。
「誰っす? どこにいるっす?」
ミンファはさっと短剣を抜くと、それを構える。
「その身のこなし――やはり、泥棒であったか」
また声がする。
「どこ? どこっすか!?」
見えない敵に、ミンファは恐怖を感じる。
「ここにいるではないか。オマエの手に――」
「――えっ?」
その声が手にしているモノから発せられていると気づき、ミンファはギョッとする。
「うわっ!」
慌てて手放すと、ギターはパッと女性の姿になった!
「さて、吾を盗んでどうするつもりだったのか? 訊かせてもらおうか?」
その女性はそう問いかける。
「だから、アナタ誰っす!? なんで、ギターが?? ギターのオバケ?」
ミンファは混乱した。自分で声にしたことだが、バカげているにもほどがある。
「オバケとは失敬な――吾は魔剣アトロポス。そもそも、オマエのような下賤の者が手にして良いモノではない」
――言っている意味がわからない。
「魔剣て……ギターだったっすよね?」
「それは……こちらにも、いろいろ都合というものがあるのだ……」
女性は遠い目をした。
「つ、付き合ってられないっす。こんなバケモノだったなんて……ああ、ツイてないっす!」
そう文句を言ってミンファは逃げ出そうとしたのだが、脚がもつれて倒れてしまう。
「きゃあ! 何!?」
黒い影が縄のようにするすると伸び、ミンファの両足に巻き付いていたのだ。
「いつの間に!?」
腕と胴体も縛られ、完全に身動きができなくなってしまう!
「オバケの次はバケモノ呼ばわりか――吾をそのように愚弄するとは、万死に値するぞ」
女性の妖艶な顔が近づいてくるので、ミンファは激しい恐怖を感じた。
「や、やめるっす! お願いっす、助けて! ほんの出来心っす!」
「デキゴコロ? そんなわけがないだろう? オマエ、今までもいろいろと盗みをしてきたはずだ」
「ど、どうして、それを?」
慌てるミンファに、アトは彼女の左中指に嵌めている指輪を指差す。
「それ、収納アイテムだな? 指輪型はとても高価だ。オマエのような『平民』が買える品物ではない。そして、あのオルガンも――であるな?」
そう見抜かれ、ミンファは「くっ……」と悔しそうな顔をする。
「あーあ、ヘマしたっす。やっぱり、見せるべきではなかったっす。そうっす、ワタシは泥棒が本業っす。それで? ワタシをどうするつもりっすか?」
観念したのか、ミンファは抵抗することをやめた。
「ほう? ずいぶんと潔いな?」
「当たり前っす。ギターに化けていたり、ワケのわからない魔法を使ったり……そんな相手から逃げ切れる自信はないっす。アナタ、魔族っすか?」
「魔族か……残念だが少し違う。吾は魔女だ」
魔女だと言われて、大きな目を見開くミンファ。すぐにまた諦めの表情に戻り――
「まあ……どっちでもイイっす。それじゃ、好きにするっす」
「――なら、もう少し話を訊かせてもらえるか?」
「……イイっすけど、これ以上話すことなんてないっすよ」
アトは、クスッと笑って――
「オマエ、タダのコソ泥でもないだろ?」
「――えっ?」
どういう意味?
――という顔をしているミンファに、アトは「そうだな」と前置きして――
「オルガンの腕前は本物だった。吟遊詩人でないオマエがどうしてオルガンを弾ける?」
このアスタリア大陸で、音楽という娯楽を嗜む人物は貴族か、吟遊詩人という一部の音楽家だけ――楽器はとても高価な品物なので、平民が手にすることはまずないのだった。
「――まあ、そうなるっすよね。でも、つまらないっすよ」
「いいから、話せ」




