第39話 少年、盗まれる
「ちょ、ちょっと! 部屋はひとつだけっすか!?」
夕食を共にして、すっかり意気投合したミンファとアニエルたち。ミンファが「自分が泊まっている宿屋は汚い」と言うので、「だったらベッドも空いているし、こっちに来なよ」とアニエルが誘った。
それなら――と、誘いに乗ったのだが、まさか男女同室とは思っていなかったようだ。
「やっぱり、ふたりはそういう関係だったっすか?」
「――えっ?」
それなら遠慮しよっか――と気を遣うので、シシリーは「ち、違いますから!」と慌てて否定した。
「そ、そうなんすか? まあ、そのほうがワタシとしては都合がイイっすけど――」
「ん? 何で都合がイイんだ?」
アニエルがそう聞き返すと、ミンファに「いや、こっちの話っす」とわけのわからないことを言われる。
「こっちってどっちだ? まあ、イイか」
自分で質問しておいて、相変わらず興味がないという感じで話を終わらすと、ギターを隣のベッドに投げて、アニエルはさっそく自分のベッドに横たわる。
「そんじゃ、また明日な――がぁ……」
「は、早っ!」
わずか数秒で寝息を立てているアニエルに、ミンファは驚く。
「アニエルさんはいつもあんな感じです」
ここ数日、彼と森の中で野宿をしていたが、アニエルの寝つきの良さはもはや達人レベルだとシシリーは説明する。
「ハ、ハ、ハ……それじゃあ、何も起こらないわけっすね」とミンファは呆れたように笑った。
「ところで、私はどこで寝ればイイっすか?」
この部屋にベッドは四つ。すでにアニエルがひとつ占拠しているが――
「私がここを使って、アニエルさんの隣はアトさんが使っているので、このベッドを使ってもらえますか?」
シシリーにそう頼まれたのだが、「ん?」と思う。
「アトって? ああ、ギターっすね? ギターがベッドをひとつ占領するっすか?」
ミンファに言われて、シシリーは「あっ……」とつぶやく。
「そ、そうなんです」
「ふーん。大事にしているんすね?」
「は、はい、それはもう!」とシシリーはなんとか誤魔化した。
「確かに、このギター……かなりの年代モノっすからね。大事にするのはわかるっす」
青髪ショートのミンファは、うんうんとうなずく。
「ギターの価値もわかるんですか?」
シシリーが質問すると、ミンファは妙に慌てて「えっ? そ、そうなんす。まあ、私も吟遊詩人っすから。ハ、ハ、ハ……」と、少し怪しい受け答えをした。
「――?」
「そ、それで、クリムちゃんはどこで寝るの?」
やや強引に話を変えようとするミンファ。
「妖精族は夜行性だから、寝ないのじゃ。もし眠くなっても、シシリーのベッドに潜り込むのじゃ」
「そ、そうなんすね。さあて、ワタシも寝るっす。おやすみなさいっす」とミンファはそそくさとベッドで横になるのだった。
それから、四時間後――
ミンファはむくっと起き上がると、辺りを見回す。
アニエルは相変わらずイビキをかいている。シシリーもすーすーと気持ちよさそうに寝ていた。夜行性とか言っていた妖精族のクリムも、ちゃっかりシシリーの顔のとなりで眠っている。
「……ゴメンす。でも、これがワタシのお仕事なんす」
そうつぶやくと、ミンファはベッドの上にあるギターを掴み、そーっと部屋を出ていった。




