第38話 少年、宿に戻る
市場で曲を披露し、なんだかんだで金貨も手に入れたアニエルたち。そして、オルガン弾きの吟遊詩人、ミンファも加わることが決まった。
アニエルは気分を良くして、ジャックの宿に戻ると食事の時間となった。
「いやあ、ワルイっすねえ。私だけお酒をもらっちゃって」
上機嫌のミンファ。こうして見るとかなり童顔なのだが、本人いわく『永遠の二十歳』らしい。
アニエルとシシリーは未成年なので果実ジュースを飲んでいる。
「うん、この肉も美味しいのじゃ」
市場で演奏していた時間以外、ほぼ寝ている妖精族のクリムも、陽が沈むとしっかり目が覚めたようだ。シシリーから料理をおすそ分けされ、目を輝かせながら食べていた。
「――てか、妖精族も肉を食べるっすね?」
ミンファは、クリムと一緒に食べるのが初めてなので、人間の料理を普通に食べている妖精に興味津々である。
「ん? また、その話か? アニエルにも同じこと言われたのじゃ」
クリムがアニエルたちと行動するようになって五日。お皿の上で、肉をかぶりつく小さな仲間にいつの間にか違和感がなくなっていた。だが、最初は確かに不思議に思えたものだ。
「もともと妖精族は雑食なのじゃ。もちろん、里では昆虫を主に食べていたのじゃがの」
同じく、森の住人であるエルフ族が獣肉を食べないので、混同されてしまったのではないか――というのが、クリムの話だ。
「うへ、虫を食べるっすか」
ミンファはちょっと嫌そうな顔を見せるので、シシリーは苦笑いする。
そんな中、アニエルはただ黙々と食べていた。食事中も人の話を聞かないようだ。
「タバサ、おかわり!」
アニエルは空になったお皿を持ち上げて催促する。
「いやあ、アニエル君の食べっぷりは気持ちイイっすねぇ!」
ミンファがそう言うと、「むぐむぐ……ん? そう?」とまだ口に料理が入っているのに喋り出す。
「オヤジさんの料理は最高だからな! いくらでも食べられるよ!」
「うんうん。食べ盛りの少年はそうでなくちゃ!」とミンファは年上っぷりをアピールする。
「ところで、お姉さん」
「ミンファでイイっす」
「ミンファはどうして、最後に『っす』って入るの?」
「えっ? あ、そうっすねえ。前に仲間だった人の口癖がうつってしまったっすね。ハハハ……」
面白かったのでマネしていたら、いつの間にか自分もクセになってしまったそうだ。
「はーい、お兄ちゃん、追加の肉炒めね!」
山盛りのお皿をタバサが持ってくる。
「サンキュ! タバサ!」
お礼を言われて、少女はとてもうれしそうだ。
「こんなカワイイ子もお店を手伝っているっすね。エライっす」
ミンファがタバサを褒める。しかし、その少女は彼女を睨んだ。
「えっ? 何?」
ぎょっとするミンファだが、タバサはプイッと背中を向け――
「残念ね。お兄ちゃんはムネの大きな人が好きなのよ」と、言い放ち、去っていった。
「――えっ?」
ミンファは控えめな自分のムネを見て、「ハハ……なんか、誤解されちゃってるみたいっすね……」と、微妙な笑みを見せた。
「ん? 何?」
相変わらず口に食べ物が入った状態で話すアニエルだった。




