第4話 少年、父と闘う
家の外に出た二人は十メートルほど離れ、それぞれ木刀を手にした。
「木刀を落としたり、マイッタと言ったり、気を失ったりしたら負け――それでいいな?」
「うん。いいよ」
アニエルはそう答える。
「ならば、オマエからかかってこい。それが開始の合図だ」
「それじゃ、遠慮なく――」
アニエルは木刀を構えると、父親のふところへ飛び込む。
ガツッ!
激しくぶつかり合う木刀の音が響いた。
「ふん!」
父親のダニエルが押し返すと、アニエルは五メートルほど吹っ飛ばされる。辛うじて両足で立ったが、手足の関節がミシミシと悲鳴を上げていた。
(やはり、チカラ勝負では父さんに勝てない――だけど)
もう一度、アニエルは突っ込んだ。
「何度やっても同じだ!」
今度も息子に向かって木刀を振り下ろすダニエル。その勢いたるや、並みの相手ならそれだけで怯ませるほどの風圧だった。
だけど、今度は受け止めず躱す! 木刀が当たる直前、身体を捻ったのだ!
「なんと!」
驚くダニエル。だが、アニエルはこのタイミングを逃さない。
(父さんは剣を振り切ったあと、ワキが甘くなるんだ!)
S級冒険者であるダニエルの剣を躱せる者など、ほとんど存在しない。だから、その弱点を克服する必要がなかった。しかし、アニエルはそれを狙っていたのだ!
木刀を水平に構え、そのまま右へ振り抜く!
「ぐふぁぁっ!」
たしかな手ごたえ!
屈強なダニエルが苦しそうな声をあげた。
(効いたのか? いや、そんなはずはない!)
これはフェイクだ。効いたフリをして、相手を油断させる。その隙を狙っているのだ!
そう考えたアニエルは、父親に反撃のチャンスを与えまいと振り切った木刀を持ち直し、そのまま背中へ回り込む。そして、素早く撃ち込んだ。
「ブファァァァッ!」
ダニエルはたまらず前へ逃げ、距離を取った。
「くっ――アニエルよ、やるようになったな。ならば、こちらも本気を出させてもらう」
うおぉぉぉぉっ!
そう声を張り上げると、ダニエルの身体にオーラのような輝きがまとわりついた。
「武技、『剛腕』――」
剣術や武術を極めると、『武技』という人間の限界を超えたスキルを習得する者がいる。
ダニエルもそういったスキルをいくつか有していたのだが、その一つが得意技、『剛腕』だ。
文字通り、肉体の限界を超え、凄まじいパワーを発揮する武技である。
彼はこのスキルで、火竜の首をへし折ってしまうのだ!
「オレの全力を受け止めてみろ!」
もちろん、アニエルもこうなることは想定していた。父、ダニエルは事あるごとに武技を見せて自慢してきたからだ。
「それならば、ボクも!」
うおぉぉぉぉっ!
「な、なんだとぉ!」
アニエルの身体にも、自分と同じオーラがまとわりついたことで、ダニエルは驚愕した。
そう、アニエルも武技、『剛腕』を習得していたのだ!
「い、いつのまに⁉」
「何度も父さんに見せてもらったからね。見よう見まねで覚えたんだよ」
「ま、まさか――」
武技はその道を究めた者だけがたどり着く、いわば究極の技。ダニエルも、血の滲むような鍛錬を重ね『剛腕』を習得した。その時、彼は二十二歳。おそらくその当時では最も若い武技の使い手だったはず――
しかし、その息子、アニエルも『剛腕』をマスターしていた。彼は今、十五歳――
それも、「見よう見まね」で覚えたぁ⁉
「それじゃ、行くよ!」
「――えっ?」
武技によりパワーアップしたアニエルが弾丸のような速さで、父、ダニエルのふところに飛び込む!
「は、速い!」
自らも武技によって身体能力を極限まで向上しているのだが、それでも息子の木刀を受け止めるのが精一杯だった!
「まだまだぁ!」
アニエルはすかさず身体を翻し、一瞬で父親の背中に回り込む。そのまま、『剛腕』のパワーをもって打ち込んだ!
「ぐふぁぁっ!!」
ダニエルは悲鳴を上げる。もはや、対処もできない。
手ごたえはあった。
(だけど、まだだ!)
ここで気を緩めたら、相手に隙を見せてしまう。いや、苦しそうなフリをしているだけかもしれない。きっとそうだ!
アニエルは、全力でたたみかけた!
「うおおぉぉぉぉ!」
武技、『剛腕』で引き上げられた身体能力をスピードとパワーに変えて、木刀を必死に打ち込む!
(まだだ! まだだ! このくらいで父さんにダメージを与えられるはずはない! もっと、もっとだぁ!)
「うりゃあぁぁぁぁ!」
渾身の振りで、父親の顔面に木刀を打ち込もうとしたとき、ピタッと止まる。
ダニエルが立ったまま、白目を剥いて気絶していたのだ!
「と、と、父さぁぁぁぁん!」




