第34話 少年、パートナーとなる
市場で曲を披露したあと、金髪、顔角度四十五度固定の若者に絡まれる。どうやら、シシリーを気に入ったらしい。
「だから、おカネ! マネー! わかる?」
アニエルは執拗にその青年にカネをせびる。見ているシシリーが恥ずかしくなるほどに――
「ああ、もちろんだ。おい、払ってやれ」
すると、後ろに控えていた冒険者が巾着袋から、黄金色のコインをひとつ取り出し、それをアニエルが手にしているザルに入れた。
「えっ? 金貨!?」
ビックリするアニエル。
「彼女の歌と美貌なら、そのくらいの見返りは当然だ」
「あ、ありがとうございます!」
アニエルは大喜びだ。
「なあに、礼を言ってもらうほどじゃない。ボクはあの名家、バウム公爵家の嫡男、エンリケ・バウムだ。いくら田舎者でも、その名くらいは聞いたことがあるだろう?」
「ん? めいか? バウム? ああ、知ってます!」
アニエルはうれしそうに言う。
「うん、そうだろう」
青年も満足げな表情だ。
「ハチミツが入っていて、おいしいんだよなあ……」とアニエル。
(そりゃ、銘菓、バウムクーヘンだろ!)とアトは危なく声が出てしまいそうになった。
ただ、エンリケと名乗った青年には、アニエルのつぶやきが聞こえなかったらしい。
「そして、冒険者としても名をはせている。もうすぐS級冒険者になる予定だ。キラ火山の火竜を討伐した実績もある。先月には……」
そう自慢ばかりを延々と話し続けるエンリケ。どうやら、コイツも人の話を聞かないタイプらしい。
「そうなんですね! もうすぐS級なんですね!」
「いや、そこは強調する必要ないぞ」
「実は、ボクも火竜を倒したことがあるんですよ! まあ、素手でなんとか――でしたけど」
アニエルはへつら笑いをしながらそう言う。
「素手で? 彼女のマネージャーよ、なかなかおもしろい冗談だな」
「そうですよね……やっぱり、冒険者なら目隠しで倒さないといけないですよね?」
「冗談を通り越して、もはや意味不明だが……まあいい。つまり、ボクは家柄も、冒険者としての実力も申し分ないということだ」
「はあ……」とアニエルは気の抜けた返事をした。
「そこでマネージャーにお願いだ。シシリー嬢をぜひ、ボクの嫁にいただけないかな?」
「――えっ?」
シシリーが目を丸くする。初対面の相手にいきなり何を言っているんだぁ?
「彼女は、わがバウム家に相応しい気品がある。ボクの第三――いや、第二夫人にしてやってもいい。どうだ、充分な待遇だろ?」
(コイツ、ぬけぬけと求婚しておきながら、妾かよ)
アトはヤレヤレと思う。
「ゴメン……彼女はやれない。ボクは彼女のパートナーなんだ」
「――えっ?」
アニエルがそんなことを言うので、シシリーの顔は真っ赤になる。
「なんだ、マネージャーで恋人というわけか」
(なんか、エンリケも勘違いしているし……)とアトは悩む。
「では金貨百枚で手を打たないか? 手切れ金としては充分であろう?」
(おいおい、人身売買するんじゃない。いや、アニエルのことだ。それで手を打つつもりじゃないだろうな?)
そう心配するのだが――
「悪いけど、いくらおカネを積まれてもダメだ。彼女を誰かに譲るなんてボクにはできない!」
「――えっ?」
アニエルはきっぱりと断る。彼の決意に、シシリーの心臓はバクバクで破裂しそうだ。
「――そうか。そこまで言われたら、いたしかたない。だが、ボクも簡単には諦めないよ」
エンリケは「ハ、ハ、ハ!」と高笑いしながら、離れていった。
それにしても――
「この町の冒険者は、こんなヤツらばかりなのか?」
ドッと疲れを感じるアトだった。
ギターも疲れを感じるのか――なんて、疑問を抱いてはイケナイ。
その時、市場の片隅で彼らの様子を窺っている人物が――
「フ、フ、フ……たまたま逃げ込んだこの町で、まさかアレに出会えるとは思ってなかったっす……人生、どう転ぶかわからないっすね」とつぶやき、さっと姿を消した。




