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S級冒険者の父に地獄育成された少年の無自覚無双~火竜を素手で殴り殺すなんて普通でしょ?~  作者: テツみン


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34/42

第34話 少年、パートナーとなる

 市場で曲を披露したあと、金髪、顔角度四十五度固定の若者に絡まれる。どうやら、シシリーを気に入ったらしい。


「だから、おカネ! マネー! わかる?」


 アニエルは執拗にその青年にカネをせびる。見ているシシリーが恥ずかしくなるほどに――


「ああ、もちろんだ。おい、払ってやれ」


 すると、後ろに控えていた冒険者が巾着袋から、黄金色のコインをひとつ取り出し、それをアニエルが手にしているザルに入れた。


「えっ? 金貨!?」

 ビックリするアニエル。


「彼女の歌と美貌なら、そのくらいの見返りは当然だ」

「あ、ありがとうございます!」


 アニエルは大喜びだ。


「なあに、礼を言ってもらうほどじゃない。ボクはあの名家(めいか)、バウム公爵家の嫡男、エンリケ・バウムだ。いくら田舎者でも、その名くらいは聞いたことがあるだろう?」

「ん? めいか? バウム? ああ、知ってます!」


 アニエルはうれしそうに言う。


「うん、そうだろう」


 青年も満足げな表情だ。


「ハチミツが入っていて、おいしいんだよなあ……」とアニエル。

(そりゃ、銘菓(めいか)、バウムクーヘンだろ!)とアトは危なく声が出てしまいそうになった。


ただ、エンリケと名乗った青年には、アニエルのつぶやきが聞こえなかったらしい。


「そして、冒険者としても名をはせている。も(・)う(・)す(・)ぐ(・)S級冒険者になる予定だ。キラ火山の火竜を討伐した実績もある。先月には……」


 そう自慢ばかりを延々と話し続けるエンリケ。どうやら、コイツも人の話を聞かないタイプらしい。


「そうなんですね! も(・)う(・)す(・)ぐ(・)S級なんですね!」

「いや、そこは強調する必要ないぞ」

「実は、ボクも火竜を倒したことがあるんですよ! まあ、素手でなんとか――でしたけど」


 アニエルはへつら笑いをしながらそう言う。


「素手で? 彼女のマネージャーよ、なかなかおもしろい冗談だな」

「そうですよね……やっぱり、冒険者なら目隠しで倒さないといけないですよね?」

「冗談を通り越して、もはや意味不明だが……まあいい。つまり、ボクは家柄も、冒険者としての実力も申し分ないということだ」


「はあ……」とアニエルは気の抜けた返事をした。


「そこでマネージャーにお願いだ。シシリー嬢をぜひ、ボクの嫁にいただけないかな?」

「――えっ?」


 シシリーが目を丸くする。初対面の相手にいきなり何を言っているんだぁ?


「彼女は、わがバウム家に相応しい気品がある。ボクの第三――いや、第二夫人にしてやってもいい。どうだ、充分な待遇だろ?」


(コイツ、ぬけぬけと求婚しておきながら、妾かよ)

 アトはヤレヤレと思う。


「ゴメン……彼女はやれない。ボクは彼女のパ(・)ー(・)ト(・)ナ(・)ー(・)なんだ」

「――えっ?」


 アニエルがそんなことを言うので、シシリーの顔は真っ赤になる。


「なんだ、マネージャーで恋人(パートナー)というわけか」


(なんか、エンリケ(コイツ)も勘違いしているし……)とアトは悩む。


「では金貨百枚で手を打たないか? 手切れ金としては充分であろう?」


(おいおい、人身売買するんじゃない。いや、アニエルのことだ。それで手を打つつもりじゃないだろうな?)

 そう心配するのだが――


「悪いけど、いくらおカネを積まれてもダメだ。彼女を誰かに譲(ゆず)るなんてボクにはできない!」

「――えっ?」


 アニエルはきっぱりと断る。彼の決意に、シシリーの心臓はバクバクで破裂しそうだ。


「――そうか。そこまで言われたら、いたしかたない。だが、ボクも簡単には諦(あきら)めないよ」


 エンリケは「ハ、ハ、ハ!」と高笑いしながら、離れていった。


 それにしても――


「この町の冒険者は、こんなヤツらばかりなのか?」


 ドッと疲れを感じるアトだった。

 ギターも疲れを感じるのか――なんて、疑問を抱いてはイケナイ。



 その時、市場の片隅で彼らの様子を窺っている人物が――


「フ、フ、フ……たまたま逃げ込んだこの町で、まさかア(・)レ(・)に出会えるとは思ってなかったっす……人生、どう転ぶかわからないっすね」とつぶやき、さっと姿を消した。

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