第33話 少年、タダ聴きされる
曲が終わるとまた拍手をもらう。今度の拍手は一曲目より明らかに大きかった。
「いやあ、元気をもらったよ。ありがとうな」
初老と言ってもいい年齢の冒険者が近寄ってくると、いきなりシシリーの手を握った。
「あ、ありがとうございます」
シシリーはちょっと引き気味ながらもお礼を言う。
(コイツもバフ効果で元気に――ではないな。単なるエロジジイだ)
アトは「はあ……」と呼吸もしていないのに、ため息をつく。
「ありがとうございます! チップはこちらへ!」
いつの間にか手にしたザルを初老の冒険者の前に差し出すアニエル。
「オマエ、なにげに準備だけはいいな」
アトのイヤミをアニエルはスルーする。
「それじゃ、キレイなお嬢さん、また歌を聴かせておくれ」
そう言って、シシリーのお尻をサッと摩った。
「きゃ……」と声が出てしまう銀髪の少女。
「フォッフォッフォッ――」と、笑いで誤魔化しながら、その冒険者はそそくさと離れていった。
「あ、ちょっと! おカネ!」
アニエルが追いかけたが、年寄りのクセに逃げ足だけは速い。あっという間に姿が見えなくなる。
「なんだよ! タダ聴きかよ!」
「いや、あのジジイはタダお触りだな」なんて、くだらないことをつぶやくアト。
そうこうしているうちに、集まっていた観客があっという間に散っていってしまった。
「ああ! 宿泊代がぁ!」
アニエルはザルを頭に乗せて、ショックを受けている。
「どうやら、タイミングが悪かったようだな」
数日前にフェンリルが現れ、冒険者が殺られてしまったらしい。
ゴブリン狩りで小銭稼ぎに来ていた冒険者は、そんな天災級魔物に恐れをなして町中でグダグダと油を売っている。
宿の旦那、ジャックの話はそうだった。つまり――
「狩りに行けないから、カネもないんだ」
「だけど、酒は飲んでいるじゃん。だったら、ボクたちの歌にチップくらいくれたっていいじゃん!」
「ボクたちの歌という部分はちょっと引っかかるが……吾もそう思うぞ」
ギターの姿をした魔剣がそんなくだらないことをつぶやいていると、またひとり、シシリーに近づく者が――
「キミ! そこの銀髪のキミだよ」
「えっ? 私?」
サラサラした金髪を前に垂らした青年。なぜか右斜め下、四十五度の角度に顔を向け、前髪の位置をやたら気にしている。武装からして冒険者のようだが、他とは明らかに違うのはその豪華さだ。獣の革を青に染め上げ、胸や肩の防具はおそらく魔法銀製。
彼の後ろにはやはり冒険者がふたり。こちらの装備もかなり高級だが、金髪の青年と違って、実用的なモノをそろえていた。
(また、ヘンなヤツが絡んできたな)とアトは思う。
「そう、キミだよ。名前は何と申す?」
「あ、はい……シシリーです」
「そうか。シシリー、キミの歌声はすばらしい! 感動したよ!」
顔の角度を固定したまま、シシリーと話している間も長い前髪を手で払っている。
「あ、ありがとうございます!」とシシリーは頭を下げる。
「それに、キミの顔立ちと体形――実に美しい! 一目で気に入った」
(おいおい、コイツもナンパかよ)
アトはヤレヤレと思う。
「ちょっと、お兄さん! 歌を聴いていたのなら、チップをくれよ」
アニエルがザルを突き出すと、その青年がチラ見して――
「なんだね、キミは? そうか、彼女のマネージャーだね?」
「ん? まねえじゃあ?」
アニエルは少し考えて……
「ああ、マネー……じゃあ! ね! そうそう、マネーだよ!」
(ちゃうわい! 付き人かと言っているんだよ! じゃあ――って、どこの方言だよ?)
アトは心の中でツッコミを入れた。




