第31話 少年、妖精族は夜型だと知る
「あのう……アトさん? 宿代、私が払えばよかったのではないですか?」
ジャックが経営する宿の客室は二階にある。そのため、三人は階段を上って部屋へ向かうのだが、その途中でシシリーが尋ねた。
「それは、父親が『オマエに――』と渡したおカネなんだろ? なら、それはオマエだけが使いなさい」
アトに言われるのだが、シシリーはなんだか申し訳ないな……なんて考えるのだった。
「えーと、二〇四号室……と、ココだな」
アニエルがドアの鍵穴に預かった鍵を差し込むと、カチッと音がする。
「開いたよ。入ろう」
部屋は、ベッドが四つあるだけのなんとも殺風景なものだった。
それに、酒とタバコのニオイがひどい。
換気のため、小さな窓を開けた。そこから見えるのは隣の屋根だけ。
「まあ、一泊銀貨二枚の部屋なんて、こんなもんだな」
アトは口をへの字にして頭を掻いている。
「私は気に入りました」とシシリーはニッコリする。
彼女には、魔王城の豪華で広すぎる部屋だと落ち着かなかったらしい。母親と一緒に住んでいた小さな家のようで、こちらのほうが安心すると言う。
「ん? 魔王城ってなんだ?」
そう言えば、アニエルには自分が魔王の娘だと話していなかったと思い出す。それを伝えようとする前に、アトが「それより、クリムを起こせ」と指示した。
「そうだった。おい、起きろ!」
リュックのポケットを叩くアニエル。その中に入っていたティンカーベルが、「ん――?」と目を擦る。
「なんだ、もう着いたのか?」
「なんだ――じゃないだろ? 人に背負わせておいて、オマエは寝ていただけじゃないかよ」
「仕方なかろう。妖精族は夜型なのじゃ」
開き直るクリム。「夕飯になったら起こせ」と、また寝ようとするので――
「寝るなクリム。これから仕事だ」
仕事をしないヤツは追い出すぞ――と、アトは言う。
「仕事じゃと? 何をするのじゃ?」
「決まっておろう? 我々は吟遊詩人だぞ」
「――?」




