第30話 少年、好かれる
「うーん、そうなると部屋を分ける必要があるか……だけど、空いている部屋はひとつなんだよなぁ」
シシリーは旅の仲間だとアニエルが説明すると、気を利かせた店のオヤジさんがそう言って頭を掻いた。
「いや、ひと部屋で良い。その代わり三人部屋にしてくれ」
そう応えたのはアトだった。いつの間にか女性の姿に戻っている。
「――えっ? お姉さん、いつの間にそこにいたんだ?」
「何を言う。吾はさっきからいたぞ」
早くも、この登場方法がテンプレになりつつある――なんて、くだらないことを考えるのだが、それは置いといて……
「それで、部屋はなんとかなるかな?」
「ああ、空いているのは四人部屋だから大丈夫だ。その部屋だと、一泊銀貨二枚になるが、連泊なら多少は割り引いてやるよ」
「そうか。それはありがたい。ただ、支払いはちょっと待ってくれ」
「まあ、いいだろう。ウチは前払いだが、アニエルたちなら待ってやるよ。オレはジャックだ。よろしくな」
「アトだ。助かるよジャックさん」
そう言って、ふたりは握手する。
「ところで……」
アトはジャックの耳元まで近寄って、こう質問した。
「なぜ、昼間から冒険者が町中をうろついているんだ?」
冒険者は魔物を倒さないと報酬がもらえない。だから、昼間は町を出て魔物狩りをしているはずなのだ。それなのに、町の至る所で多くの冒険者を見かけた。
「ああ、実はな――三日前、樹海でフェンリルとかいう怪物が現れて、冒険者が三人殺られたらしい」
フェンリルはその昔、町を襲っては千人以上の犠牲者を出したと言われる伝説の魔獣だ。オオカミのような顔をした、胴体が十メートルほどもある巨大な魔物だったと文献に記されている。
ここ数百年、その姿を見た者はいないと言われていたのだが――
「フェンリルね……それじゃあ、腕に自信がない冒険者は樹海に行きたがらないわけだ」
「まあ、そういうことだな」
現在、上級冒険者のパーティがフェンリルを探しているらしい。その他の冒険者は、町で待機しているか、狩りを諦めて帰ったとのこと。
「姉さんたちも、町の外には出ないほうがいい」とジャックが言うので、「ああ、そうするよ」とアトも答えた。
部屋の鍵を預かると、さっそく荷物を置きに部屋へ行くことになるのだが……シシリーは、タバサの視線が気になる。
特にムネの辺りが――
「えーと、タバサちゃん? 何か私に用があるの?」
タバサはぷいっと視線を逸らす。
「私だって、五年後はナイスバディになっている予定なんだから」
そうつぶやいて、奥へ行ってしまった。
「ハ、ハ、ハ……」




