第29話 少年、宿に入る
この町の名物、ワイルドボアの肉串を堪能したアニエルたちは宿屋へと向かう。アニエル親子が五年前に利用していた宿らしい。
「あった、ココだよ」
扉を開けると、中は宿屋というより食堂という感じだ。四人掛けのテーブルが六つほど並んでいる。
「ココは、一階が食堂、二階が客室になっているんだ」
「なるほど」
女性の姿から再びギターに戻っていたアトは、アニエルの説明にそう呟く。
一番奥のテーブルには冒険者らしい男たちが四人、しけたツラで昼間っから酒を飲んでいた。ほとんど会話もせずに、こちらをちらちら見ている。
「アニエルお兄ちゃん?」
別のテーブルから飲み終わったジョッキを片づけていた十歳くらいの女の子が、アニエルたちに気づいて声をかけてきた。
「タバサか? 大きくなったなあ!」
アニエルが女の子に話しかけると、タバサと呼ばれた女の子は満面の笑みを浮かべて――
「お兄ちゃんもカッコよくなった!」と元気に応えた。
「あのう……お知り合いですか?」
シシリーが尋ねると、アニエルは「ココの子供で、タバサというんだ」と紹介する。
「そうなんですね。よろしくお願いします、タバサちゃん」
そう挨拶すると、タバサの表情が変わる。明らかに敵意を向けられていた。
(ど、どうして?)
「お兄ちゃん、このひと、誰?」
「ん? ああ、シシリーっていうんだ。今、一緒に旅をしている」
「ふーん、あ、そう……」
急に不機嫌になるタバサ。
(もしかして、私、嫌われている?)
シシリーは戸惑うのだった。
「ところで、オヤジさんは?」
「パパは今、厨房。呼んでくるね!」
店の少女は空ジョッキを持って奥へ行く。
すぐに、大柄なオヤジさんが現れた。
「おお! 本当にアニエルだ! 大きくなったなあ! いくつになったんだ?」
「十五だよ」
「そうか! それじゃ、冒険者になったんだな!」
オヤジさんはそう言うので、アニエルは「ううん、冒険者になるのは諦めたんだ」と応えた。
「えっ? そうだったのか……それは、すまん」とオヤジさんは申し訳なさそうに言う。どうやら、冒険者試験に落ちたとでも思ったらしい。
「それより、今日からココに泊まりたいんだけど、部屋はある?」
「ああ、ちょうど空き部屋ができたところだ。ところで、お連れは奥さんかい?」
「――えっ?」
宿屋のオヤジさんに言われ、シシリーは顔が真っ赤になる。
「違うよ、シシリーは旅の仲間だよ」とアニエルが平然と否定するので、シシリーは少し残念な顔をした。
「なんだ、そうなんだ」と、逆に喜んでいたのは、この店の娘、タバサだった。
(ほう……アニエルも案外モテるんだな)なんて、アトはひとりでクスクスと笑っていた。




