第27話 少年、気合を入れてもらう
「い、いてぇぇぇぇっ!」
そう叫んだのは、モヒカン頭のゴンザレスだった。アニエルの頬を殴った左手の拳を、痛そうに抱きかかえているではないか!
殴られたアニエルは、呆けた顔をしていた。
三秒後――
「あ……」
(……あ?)
「ありがとうございます!」
そう声を出して、頭を深々と下げたぁ?
相変わらず敬語だし……
「ちょ、ちょっと、ぼ、坊や。殴られたのに、どうして、お礼を言っているのさ!?」
マルシアと呼ばれた、串焼きを売っているおばさんが、アニエルの突拍子のない行動に驚いている。
「殴られた? 違うよおばさん。この人はボクに気合を入れてくれたんだよ」
――――――――はあ?
「アンタ、何を言って……」
「ボクが不甲斐ないから、拳で気合を入れてくれたんだ。そうですよね? 先輩?」
いや、先輩って……
「い、いったい、さ、さっきから、何を……」
まだ拳が痛いのか、左手を撫でながらゴンザレスは言う。
「あっ、すみません。こうですね? はい!」と、アニエルはなぜか左頬を男に向けていた。
「な、なんだ? ど、どういうつもりだ?」
「もちろん、『右頬を殴られたら、左頬を差し出せ』ですよね? 先輩?」
「……………………」
もはや、コイツの思考が読めない……アトは苦悩する。
「さあ、どうぞ、遠慮しないでください! どうぞ、どうぞ!」
そう言って、左頬を突き出す。
さすがにアニエルの行動が気持ち悪かったのか、男は数歩、後ずさりした。そして――
「や、やってられっか! このヤロウ!」と、男はまだ左拳を庇いながら、背を向けて去っていく。
「お、覚えてろよ!」
「はい! 先輩の指導、しっかりと覚えておきます!」と、アニエルはまた頭を下げた。
(なんなんだ? この茶番は……)
アトは呆れて、ため息をつ……つきたい気分になるのだった。
「坊や、ありがとうね。いや、もう坊やは失礼だね、アニエルさん」
串焼き屋の女主人、マルシアがアニエルにお礼を言うのだが、当の本人はピンと来ていない様子で――
「なんで、『ありがとう』なの?」と、不思議そうに言う。
「なんでって、あの男に絡まれていたところを助けてくれたんだろ?」
「へっ? 絡まれていた? それは勘違いだよ。とてもイイ人だったじゃないか」
アニエルが真顔で、そう言うので、マルシアは混乱する。
「イテッ!」
突然、アニエルが声をあげた。いつの間にか、彼のうしろに赤毛の美女が立っている。
「おいアト! なにするんだよ!」とアニエルは自分の頭をさすりながら、文句を言う。
「それはこっちのセリフだ。話をややこしくするな!」
と、赤毛の美女は叱った。
「ちょっと、お姉さん? いつの間に、そこにいたんだい?」
「何を言ってる? マルシアさんだっけか? 吾はさっきからいたぞ」
「?、?、?」
たしかに嘘は言っていない。アトは先ほどまで、アニエルに背負われていた。ギターの姿だったが――
何度も首をひねっているマルシアに、隣で眺めていたシシリーは苦笑いする。
「それより、本当にいい匂いのする串焼きだな。どれ、吾々にもひとつずついただけるかな?」
アトが頼むと、マルシアは「もちろんだよ」と串焼きをアニエル、アト、シシリーにそれぞれ渡す。
「ほれ、アニエル、おカネを渡してやれ」
「えっ? ボク、おカネを持ってないよ」
「………………は?」
「おい、串焼きを買うために寄ったんじゃないのか?」
「うん。だけど、おカネのことを忘れていた」
「どんだけ計画性がないんだ、オマエは!」




