第26話 少年、冒険者に敬語を使う
「ババァ! サッサと慰謝料をよこせ!」
「だから、言いがかりはよしておくれ!」
「なんだとぉ!? オレが嘘をついているというのかぁ!?」
屋台の前で、小太りで白髪の女性と、モヒカン頭で革の防具だけの男がなにやら口論となっていた。
「こりゃ、面倒だな……別の店に行こう」
アトはそう言う。だが、アニエルはそのまま白髪の女性に近づいた。
「おい、こら!」と呼び止めても、少年は止まらない。
「マルシアおばさん!」
アニエルがそう声をかけると、女性は振り返った。
「ん? アンタ、アニエル坊やかい?」
「うん、お久しぶり!」
アニエルは親しげに話す。
「お知り合いですか?」
シシリーが尋ねると――
「うん、おばさんの肉串がとっても美味しいんだよ!」
五年前、この町を拠点に修行していた時、帰り道にここの串焼きを買って食べるのが楽しみだったらしい。
「そうなんですね」
「おい小僧! このババアとはオレが話しているんだ。勝手に割り込むな!」
モヒカン頭の男はアニエルの前に入って、そう怒鳴る。
「ん? おばさん、このひと、誰?」
「串焼きに虫が入っていたって、言いがかりをつけてきたんだよ」
「言いがかりじゃねえ! 串にゴキブリが刺さっていたんだよ!」
「だから、それを見せなさいって、言ってるのよ!」
「気持ち悪いから捨てたって言っているだろ! ほら! サッサと慰謝料をよこせ!」
こりゃ、どう考えても嘘を言って金をせしめようとしているとしか思えない。(面倒なヤツに絡まれているなあ……)そう、アニエルの背中で思案するアト。
「ウチの串焼きはイイ食材だけを選んで使っているんだよ。虫なんか入っているわけないでしょ!?」
「そうだよ。それに、おばさんの串焼きは味付けも最高なんだ。きっと、ゴキブリだって美味しく食べられるはずだよ」と、アニエル。
(オイ、オイ……それは援護になってないだろ)
呆れるアト。
「うるせえ! オレたち冒険者がこの町を守ってやっているというのに、その口の利き方はなんだ! ババア、痛い目に遭わすぞ!」とモヒカン頭の男は、脅迫めいた口調になってくる。
「えっ? オジサン、冒険者なの?」とアニエルは尋ねた。
「そうだよ。ゴンザレスと言えば、冒険者仲間で知らないヤツはいないさ!」
(なるほど……さぞかし、悪名で有名なんだろうな……)
なんて、アトは考える。
するとアニエルは――
「うわぁ! スゴいですね!」
なぜか男を褒めるのだった。
「あ、ああ、そうだよ。スゴいんだぜ、オレは!」
と、ゴンザレスは気分を良くしたようで――
「オレは今まで、オークを十匹倒しているんだ」と自慢する。
「そうなんですね! それで、火竜は何匹ですか?」
敬語で相手に話しかけるアニエル。
(さっきは、司教にもタメ口だったのに、なんでこんなクズ野郎には敬語なんだ?)
「ひ、火竜!? おい、ガキ……いったい、何を言ってやがる」
「ボクはまだ、一匹しか倒したことがないんですよね」とアニエルは恥ずかしそうな表情を見せる。
「だ、だから、オマエは何を言っている?」
「そうですよね。一匹くらいじゃ倒したウチに入らないですよね」
今度は悲しそうな顔になる。
「ワケのわからないことを言ってんじゃねえ! 小僧!」
そう言って、男はいきなりアニエルの顔を殴りつけた!




