第24話 少年、怪しまれる
「ほら! ブラバドの町が見えてきたよ!」
半人半魔の少女、シシリーと妖精族のクリムが加わったあと、五日ほどかけてやっと樹海から抜け出した。
「樹海からさほど離れていないというのに、よくもまあ、こんな場所に人里があるな?」
喋る『魔』ギター、アトがそんな懸念を呟く。
本来、大樹海の周辺は魔物が多く出没するため、人は住めないはずなのだが……
「ああ……町の『守り神』がいるとかで、この辺りには魔物がいないんだって」
アニエルは五年前、この町を拠点に二ヶ月ほど『修業』をしたらしい。それで知っているのだ。
「守り神ねえ……」
「なので、この町は魔物除けの柵もないんだよ。ほら!」とアニエルが指差す。
「――おい、思いっきり柵があるじゃないか?」
そうツッコミを入れるまでもなく、町全体が丸太の柵で囲まれているのが見えた。
「あれ? 前に来た時はこんなのなかったけどなあ」
近づくとかなり大きな柵だ。樹海側には入口がない。仕方なく、アニエルたちは町をぐるっと半周した。ようやく町の入口に到着すると、警備をしている兵士に呼び止められる。
「おい、見ない顔だな。どこから来た?」
「トルトからだよ」
「トルト? 樹海の向こう側じゃないか? 迂回してきたのか?」
「いや、樹海を突っ切ってきた」
実際は、迷子になり十日ほど樹海を彷徨っていたのだが――
「はあ? 何を言っている? 上級冒険者ならともかく、オマエみたいなひよっこが樹海を越えるなんてできるわけないだろ?」
警備兵はそう言うが――
「樹海といっても、危険な魔物が出てくる奥地には行ってないよ。出てきてもザコばっかりだったし」とアニエルは言い訳した。
奥地には行ってない――か。
災害級の魔物がうじゃうじゃいる地域が奥地でないとすれば、どこが奥地なのだ?
――なんて、アトはツッコミを入れたい気持ちをひたすら我慢する。さすがに、こんなところでギターの姿をした自分が喋っていたら、大騒ぎになってしまうからだ。
「ふん、まあいい。ほら、身分証を見せろ」
兵士はかなり横柄な態度で手を差し出した。
「えっ? 前は入るのに身分証なんて必要なかったよね?」と、アニエルは言う。
「おい、いつの話をしている? この辺りに魔物が出没するようになってから、町へ入るには身分証を持っている者か、その家族だけだ」
魔物が出没?
「あれ?」という顔をするアニエルだが、兵士が「ほら、早くしろ!」と急かすので、「ハイ、ハイ」と、リュックから冒険者証を出した。
「ど、どうしましょう? 私、身分証なんて持ってませんけど……」
シシリーは小声で囁いた。
「なあに、兵士が言っていただろ? 家族は入れると――ふたりは夫婦だと言えば良い」
そうアトは提案した。
「ふ、夫婦!?」
そんなことを急に言われて、顔を真っ赤にするシシリー。
「何を言っているんだ? ボクたちは夫婦じゃないぞ」
アニエルが兵士にも聞こえるような大声でハッキリ否定するから、アトは頭を抱えてしまう――ギターに手はないので、そんな気分になったという話だ。
「バカか、オマエは……」
「なんだよ! いきなりバカって!」とアニエルはギターに向かって話しかける。
「おい! いったい、誰と喋っているんだ?」
当然、兵士にそう質問される。
「いや、だからアトが変なことを言い出して――」
「アト? アトとは誰だ?」
「だから、このギ……もごもご……」
これ以上、余計なことを言ったら大変だと、シシリーがアニエルの口を塞ぐ。
「い、いえ、なんでもありません」
「さっきから、おかしいぞ。オマエたち、怪しいなあ? いったい、何しに来た?」
そう言って、兵士は槍を構えた。
もう、町に入るどころじゃないな。このままじゃ、不審者として捕らえられてしまう。
(幻影魔法を使って逃げるか。まったく、世話の焼ける……)
アトがそう考えた時、後方から男性の声が聞こえた。
「キミたち、こんなところにいたのですか?」




