第23話 少年、魔族の標的となる
アニエルを勝手に、『魔人化した人間』と結論づけて、勝手に、『魔族の脅威』と位置づけた、魔族軍、五虎将のふたり、バエルとベルゼブブ。彼らの会話はまだ続いていた。
「とにかく、あの少年と正面から対決するにはリスクが高すぎる」
それはつまり、あの少年がシシリーのそばにいる限り、彼女の命を奪うことは難しい――そうバエルは判断したようだ。
「くっ……」
悔しそうに唇を噛みしめるベルゼブブを見て、バエルは少しだけ口角を上げた。
「だが案ずるな、余が貴様にいくつか策を授ける。そのひとつが、これだ」
空間に映し出されたのはオオカミのような生き物だった。しかし、オオカミよりはるかに威厳のある風貌である。
「これはもしや!」
そう声を張り上げるベルゼブブの次の言葉を遮るように、バエルは説明を加えた。
「あの『卑しい血の女』と少年が向かったブラバドという町の周辺にこれがいる。ベルゼブブ、貴様ならこの状況を上手に利用できるであろう?」
するとベルゼブブは「フ……」と含み笑いを浮かべ――
「もちろんです。お任せください。バエル様」と、頭を下げる。
「それと、これも貴様に預けるとしよう」
すると、ベルゼブブの前に直径三十センチほどの水晶玉が現れた。その内部には禍々しい黒い霧が渦巻いている。
バエルの手を離れた水晶玉は、ゆっくりと宙を移動して、ベルゼブブの手の中に収まった。
「こ、これはもしや!」
驚くベルゼブブに、バエルは「封魔の玉だ」と答える。
「封魔の玉!? ほ、本物なのですか!?」
「中に封じられているモノは――わかるな?」
ベルゼブブは「うむむ……」と唸ったあと――
「で、ですが、これは魔王城の宝物庫で厳重に封印されていたはず。どうしてこのようなモノがここに?」
ベルゼブブの質問に、バエルはニヤリとするだけで答えない。代わりに――
「あくまでも保険だ。できれば使用したくない。理由は、わかっておるな?」
「も、もちろんです」
「だが、もはや失敗が許されないのも確かだ。必要とあれば躊躇なくそれを使え、良いな?」
「御意……バエル様、恐れながらもうひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「うむ。何だ?」
「人間はなぜ、あの『卑しい血の女』を連れ出したのでしょう? それこそ、魔人というヤツらの秘密兵器を送り込まなければならないほどに……」
ベルゼブブの質問に、バエルは「それも調査する」と応えたあと――
「もしかしたら、人間はあの『卑しい血の女』になにか用途を見出したのかもしれない」
なにせ、魔王と聖女の血を持つ娘。いかなる使い道を見出しても不思議ではない。
そう自分の考えを付け加えた。
「なるほど。それではなおさら、あの女を人間に渡すわけにはまいりませんね」
「その通りだ。ベルゼブブ、貴様の任務は重要だぞ」
「承知です。では、行ってまいります」
そう声にしたベルゼブブはその場から姿を消した。
残ったバエルはひとり呟く。
「血の気の多いヤツは、御しやすくて助かる」




