第21話 少年、機嫌が悪い
アニエルたちの睡眠を邪魔したのは、悪霊――ではなく、妖精族。身長二十センチほどの小さな女の子だった。
寝起きだと機嫌が悪いアニエルは彼女の横暴な態度に苛立ち、握り潰そうとする。
「ぎゃあ! 苦しい! 潰れる! や、やめるのじゃ」
「だから、先に言うことがあるだろ? それとも、本気で潰してやろうか?」
「ぎゅう! わ、わかったのじゃ! 許せ――な、中のモノが出ちゃう」
「ゆるせぇ? 違うだろ? ゴメンナサイだろ?」
「ゴ、ゴメンナサイ! もうしません……」
アニエルは「はあ……」とため息をついて、手を離した。
すると、その妖精はサッと飛び、アニエルから数メートル離れた上空に留まる。
「ハ! ハ! ハ! バカめ! もう、寝かせないのじゃ! うわっ! なんだぁ!」
今度は妖精のカラダに金色の輪っかが二つはまり、飛べなくなったそれは、地面に落下する。
「ぶべっ!」
「相手がわかれば、いくらでも捕まえられる。このお騒がせチビ助め!」
どうやら、アトが魔法で妖精を捕縛したようだ。
「えーと、クリム――ちゃん? どうして、私たちにイタズラしたの?」
シシリーが尋ねると、地べたに寝そべった状態のまま、小さな侵入者は「ふん!」と不満そうな顔をする。
「イタズラではない。そもそもココは儂の住処じゃ。だから、追い出そうとしただけじゃ」
「妖精族の住処? それじゃ、他の者はどこにいる?」
アトが尋ねると――
「いない。儂、一人じゃ」
一人?
「おい、どういうことだ?」
アニエルが質問しても、クリムと名乗った妖精は「ふん! 教えてやるか!」とまだ強気でいる。
「だから、自分の立場をわきまえたらどうだ?」
そう言って、アニエルは縛られて抵抗できない妖精のオナカを指でくすぐる。
「ぎゃ、は、は! やめてくれ。は、話す。話すから、もうやめるのじゃ」
さすがに観念したようで、クリムは事情を語りはじめた。
彼女はここから東にしばらく行った先の妖精族の里で暮らしていたらしい。
だが、イタズラの度が過ぎてしまい、ついに族長の堪忍袋の緒が切れ――
「それで、里から追い出された――ということか」
アトはヤレヤレという表情を見せる。
「ふん。そもそも、妖精族はイタズラ好きなのじゃ。イタズラして何が悪い」
「開き直るな――てか、それじゃ、この場所は別にオマエの住処というわけでもないではないか!」
「一週間前から、儂はココに住んでいる。だから、ココは儂のモノじゃ」
ずいぶんと勝手な言い分だと、三人は呆れてしまう。
「なんかもう、どうでも良くなってきた。どうせ、明日の朝にはココを出て行く。その間くらい使わせてくれてもイイだろ?」
「えっ? 朝には行っちゃうのか? もう少しいてもイイのだぞ」
今度は悲しそうな顔をするクリム。
「出て行けと言っているのは、オマエだろ?」
「それは、そうじゃが……」
いったい、どっちなんだよ――と、口を尖らせるアニエル。
すると、シシリーがクスッと笑って――
「ねえ、クリムちゃん? さっきは太鼓やジンバルを出していたよね? 音楽は好きなの?」
そんなことを尋ねる。
すると、クリムは急に機嫌が良くなって――
「もちろんじゃ! 妖精族は歌が大スキなのじゃ。こう見えても、儂は打楽器の腕前が里で一番上手いと言われていたのじゃ!」
今度はとても自慢げな顔になる。
「そうなんだ。私たちは王国へ行って、歌いながら旅をしようと思っているの。よかったら、クリムちゃんも一緒にやらない?」
――えっ?
「「え、ええっ!」」
クリムだけでなく、アニエルも驚いている。
「シシリー、な、何を言い出すんだよ?」
「あら、音楽にパーカッションは大事ですよ」とシシリーはニッコリする。
「なるほど、いい考えだ。妖精族は珍しいから、客寄せにもなるぞ」とアトも乗り気だ。
「なあに、そんなチビに頼らなくても、ボクがギターを弾けば客なんかいくらでも集まるさ」
「せめてコードをひとつでも覚えてから、啖呵を切れ」
そんなふたりの言い合いを無視して――
「それで、クリムちゃんはどうなの? 一緒にやってみたいと思わない?」とシシリーは勝手に進める。
「ふん! 人間風情と一緒に――じゃと? 崇高なる妖精族の儂が、ずいぶんとナメられたモノじゃ」と腕組みしながら威張るクリム。
「はい、この話はなかったということで。さっさと寝るぞ」とアニエルは横になった。
「ま、まだ、やらないとは言っていないのじゃ!」
今度は慌てた表情になるクリム。
「それじゃ、お願いしていい? きっと、みんなが驚くような歌になるわ」
「そ、そこまで言うなら、や、やってもイイのじゃ」
あっさり折れる。
「ありがとう! 今からとっても楽しみ!」
「おい! 勝手に決めるなよ」
「なら、オマエだけ抜けるか? さほど……いや、まったく戦力になっていないからな。音楽に関しては――」
そうアトに言われて、アニエルは「勝手にしろ――」と狸寝入りを決め込む。
「ヤレヤレ……どいつもこいつも、素直じゃないな」
今は美しい女性の姿をしている、アトが美しい黒髪を掻いていた。
アニエルが故郷のトルトから旅を始めて十日とちょっと。こうして、旅のメンバーがいつの間にか四人(?)となったのである。
三日後、彼らは王国最北端の町、ブラバドに到着する。




