第20話 少年、悪霊に起こされる
真夜中の静かな湖畔に鳴り響く打楽器の音。
それだけではない。
空中に太鼓やシンバルが浮かび上がり、まるで意思を持つかのように激しく飛び回っていた。
「なんだ、こりゃあ!?」
状況が把握できず、ただ、その様子を見守る三人だったが、今度はおどろおどろしい声が聞こえてきた。
「立ち去れ~、ココは、オマエたちの居てイイ場所ではない。立ち去れ~」
脳へ直接響くような、激しい憎悪を感じる声だ。
「な、なに? もしかして、悪霊?」
シシリーはそう声にする。
恨みを抱いたまま肉体を失った魂が、その地に留まり、悪霊となることがある。
そういったモノは、生きている者を襲い、肉体を啄むらしい。
これが、その悪霊なのか!?
「ア、アニエルさん! 逃げましょう! ココは危険です!」
そう主張するシシリーだが、アニエルは「あー、ちょっと待って」と妙に落ち着いて上空を見ている。ただ、視線は左右に激しく動いていた。
「な、何をしているのですか!? このままでは呪われて、食べられてしまいますよ!」
しかし、アニエルはまったく動じない。もしかして、恐怖で足がすくんでしまったのか!?
「ここから立ち去れ~、さもなければ、食い殺すぞ~」
バン! バン! バン!
カン! カン! カン!
相変わらず、空中を飛び交う太鼓やシンバル。そして、おぞましい声……
「立ち去れ~、立ち去れ~」
「アニエルさん!」
シシリーがアニエルの腕を掴んで、連れて行こうとするのだが、それを振りほどき、二、三歩前へ出た。
「よっ!」という掛け声で高々とジャンプする。そして、右手をさっと突き出した。
「ぶべっ!」
「――えっ?」
それまで、鳴り響いていた音がパッと止んだ。
「どういうこと?」
「やっぱり、オマエだったか。犯人は――」
アニエルが右手に握ったモノにそう言う。
「オマエ?」
シシリーがのぞき込むと――
「こらぁ! 離すのじゃ!」
舌足らずで、どこか幼な気な声が聞こえてきた。
「えっ? それって――」
アニエルが掴んだモノ。それは、金髪で色白の少女。ただし、身長は二十センチくらい。
よく見ると金色の翅が生えている。
「ほう、めずらしい。妖精族だな」
「妖精族?」
「そうじゃ、儂は妖精族のクリム様じゃ! わかったら、さっさと離せ」
クリムと名乗った妖精は、アニエルの手の中で暴れていた。
「はあ? 人の眠りを妨げたクセに、ずいぶんとエラそうじゃねえか?」
アニエルはいつもより言葉が荒れている。どうやら、寝起きだと機嫌が悪くなるタイプのようだ。




