第19話 少年、寝ている
シシリーは、母から聞いたという両親の馴れ初めを話すのだった。
王国の下級貴族出身だった母親は、神宣を受けたばかりに、王国の特権階級から疎まれ、成人すると警護を理由に外へ出ることを禁止された。
彼女の影響力が民に広がるのを恐れ、つまるところ、幽閉されたのだ。
そんな時に、魔王ベリアルは王国へとやって来た。聖女の魂を手に入れるためだ。
魔族にとって、聖職者の魂は権力の象徴。特に、聖人、聖女の魂は是が非でも手に入れたい『モノ』らしい。
彼女が幽閉されている部屋にやって来たベリアルは、彼女の純真さに心を奪われてしまう。二人は一夜を共にした。
そして、彼女をこんなところに閉じ込めた貴族たちを皆殺しにして、彼女を王都から連れ出す
のである。
本当は魔族領へ連れ帰りたかったのだが、彼女はそれを強く拒んだ。仕方なく、魔王は彼女に魔力放出を制限する魔法をかけ、片田舎に置いていくことにした。
その後、聖女は女の子を出産する。
最初は親子仲睦まじく暮らしていた彼女たちだったが、娘が成長するとその膨大な魔力によって、魔族側に知れてしまう。
反魔王派の魔族が二人の殺害を企て、人間の賊を使い、彼女たちの住む村を襲わせた。
それに気づいた魔王が二人を救出するために急ぎ向かうのだが、聖女である母親はすでに息絶えていた。
ギリギリ、娘――つまり、シシリーだけは助けられ、保護すると魔王城へ住まわせたのである。
「そしてお父様――魔王ベリアルは私を後継者にすると宣言しました」
自身の娘であっても、魔王が人間を連れてきたことに反発する側近たちを黙らせるためだったのだと思う――そう、シシリーは理解していた。
「ですけど、私はそんな地位を欲していませんでしたし、そんなチカラもありません」
「――だから、逃げ出してきたんだな?」
シシリーは小さく頷いた。
「私はお母さんと約束したんです。『歌でみんなを幸せにする』って。私は、ただその約束を果たしたいだけなのに……」
魔王と人間の混血という、ただそれだけの理由で命を狙われる。そんな、自分の生い立ちが恨めしい。
「私はただ、大好きな歌を歌っていたいだけなのに……」
シシリーはアトのカラダに抱きつき、声を出して泣いた。まるで、小さな子供のように――
そんな彼女の背中をそっと撫でながら、アトはただひと言、「そうだな」とだけ囁く。
そのままシシリーが眠ってしまうと、アトは彼女を寝床まで運んだ。
「どうやら、吾は大きな変革が起こる時代に舞い戻ってしまったようだ」
そうつぶやき、満天の星空を見上げる――
突然!
バン! バン! バン!
カン! カン! カン!
大きな音が鳴り響いた!
「な、なんだぁ!」




