第17話 少年、手を握られる
シシリーは、自分を助けた少年と魔剣(?)に自分の正体を明かした。
彼女は魔族と人間との間に生まれたハーフだった。
「私は人里で暮らしていましたが、十二歳の時、母が亡くなり魔族領にいる父の下に連れていかれました」
しかし、魔族に馴染めず、ついに魔族領から逃げ出すことを決意する。
「なんとか魔族領を出るところまでは逃げてこられたのですが、この樹海で魔族の追手に捕まってしまったのです」
そして、アニエルたちに助けられた――そう説明した。
シシリーがイヤリングを付けなおすと、頭の角は再び三つ編み団子ヘアへと変わる。
「このイヤリングは母親からもらった大切なモノです」
シシリーが人里で暮らすため、角を隠し人として生活するようにと小さい頃からいつもつけていたそうだ。
「ふーん……」とアニエルはあまり興味がないような顔をしている。
逆に、アトはとても興味を持ったようだ。
「そのイヤリングには、幻影魔法が付与されている。そのような芸当ができるのは、高名な魔導士か、高位の魔族くらいだ。もしかして……」
ギターの姿をしたアトがそこまで話しかけたところで、シシリーが「それにしても!」と声にする。
「アニエルさん、とってもお強いですね! 本当は冒険者なのではないですか?」
そう質問してくる。
「いや、冒険者になる夢はもう捨てた」
「――えっ?」
冒険者になるための訓練をやってきたが、自分にはその素質がなかったんだ――そう彼は言う。
「素質がないなんて……あれだけの魔族を相手にしても、余裕だったのに?」
「魔族といってもザコだからね。あの程度なら、冒険者でなくても勝てるよ」
魔族軍の精鋭たちをザコ呼ばわりするなんて……この少年は、本気でそう思っているのだろうか?
シシリーはどう解釈すればいいのか困ってしまう。
い、いや、そんなはずはない。彼は謙遜しているのだ。だって――
「そ、それに、ベルゼブブの精神支配魔法も打ち破るなんて! 魔族でも無理な芸当ですよ!」
「何を言っているの? ベルゼブブって魔王軍五虎将と呼ばれる魔族だよ」
アニエルに言われるまでもなく、ベルゼブブは強力な悪魔だ。その気になれば国の一つくらい滅ぼせるだろう。
「そんな大魔族の攻撃をボクが防げるわけないじゃないか? あれはきっと、ベルゼブブに似た、ザコの魔族だよ」
気配も火竜よりちょっと強いくらいだったし――とアニエルは信じない。
「いや、あの者は本当に――」
「ありがとう。そうやって、ボクに気を遣ってくれているんだよね? 少しでも自信を持たせようと……」
彼に自信を持たせる? いやいや、それどころかその力を誇ってもいい。
そんなことをシシリーは思うのだが――
「それはともかく……シシリーって、歌がとっても上手いよね?」
少年は照れくさそうにそう言うので、ちょっと驚いてしまう。
「あ、ありがとうございます」
「実は、ちょっと感動した。このコ、スゴいなあって」
そんなふうに言われて、シシリーもなんかうれしくなった。
「まあ、ボクの次くらいだけど」
「まだ言うか! オマエの子守唄では、三日くらい眠れなくなるわ」と悪態をつくアトを無視して――
「それで……あの話は本当?」
「あの話?」
「ボクたちと一緒に吟遊詩人として旅するって話」
「えっ? いいんですか?」
「べ、別にイヤなら、ムリに頼まないけど……」
すると、シシリーはアニエルの手を突然握った!
「え、ちょ、ちょっと」
いきなりのことで、顔を真っ赤にしている相手に、シシリーは「嫌ではありません! ぜひ、一緒に旅をさせてください!」と応える。
「そ、そうか。それじゃ、し、仕方ないな……」とアニエルは目を合わせないまま、了承するのだった。
「はい! よろしくお願いします! アニエルさん!」
こうして、また一人、旅の仲間が増えた。
「よ、よーし! また吟遊詩人への道が開けたぞ!」
「その前に、この樹海から抜け出す道を探せ」




