第16話 少年、失言する
「あの、あ、ありがとうございます!」
少女は少年に向かって何度も頭を下げる。
銀髪の少女――シシリーは、アニエルの助けを得てベルゼブブから逃げ延びることができた。
その感謝の気持ちを身体全体で表現したのだ。
「い、いえ、ど、どういたしまし――て」
アニエルは何度も噛みまくる。緊張しまくりだ。
目を合わせようともしない。というのも、彼女の容姿が短パン、タンクトップ、つまり肌の露出が多かった。逃亡のため、動きやすい服装ということだったのだが、異性に対して免疫のない十五歳の少年には刺激が強すぎたようだ。
それでも、会話を続けなければと、考えたのだろうか……彼女をチラチラと見ながらこう言った。
「あ、あのう……」
「はい? なんですか?」
「ム、ムネが大きいですね」
(――――――――えっ?)
そのひと言に反応したのはアトだった。ギターの胴体からニョキニョキと手が出て、アニエルの頭を叩く!
(えっ? ギターから手!?)
「それが、初対面の女子に向かって言う言葉か! 思春期思考ダダ洩れするな!」
「だけど、女の子はまず褒めてあげるんだって、父さんが――」
「褒める場所が間違っているわ!」
アニエルは叩かれた頭を撫でながら、「やっぱり、どうやってコミュニケーションすればイイのかわからないよ……」とブツブツ言う。
「わからないのは、オマエの頭ん中だぁ!」
興奮して、ゼイゼイと激しく呼吸するアト――何度も言うが、それはモノなので、呼吸する必要はない。
そんなふたり(?)を見て、シシリーはクスクスと笑った。
「ほら、喜んでいる」と彼女を指差すアニエル。
「褒められて喜んでいるわけじゃない! オマエのバカさ加減を笑っているだけだ!」
このままでは会話に入れないと考えたシシリー。「あ、あの!」と声を張り上げる。
「腕に怪我が――」
「ん? ああ、さっき擦りむいたんだ」
唾をつければそのうち治ると、アニエルは言うのだが――
「それじゃ、化膿してしまいます」
そう言って、シシリーがアニエルの腕を掴む。
「えっ? 何?」
「ヒール」
彼女の右手が淡く暖かそうな光を放つと、肘の傷がスーッと消えた。
「ほほう、見事な治癒魔法だな。聖職者というわけではなさそうだが、どこで治癒魔法を覚えた?」
「はい、お城に囚われていた人の中に聖職者がいて――」
その人物から教えてもらった――と、彼女は言う。
「……お城?」
「えっ? あ……なんでもないです」
手をパタパタさせて誤魔化すのだが、余計アニエルが不思議そうな顔をしているので、急いで話題を変えた。
「私はシシリーと言います!」
そう言って、再び頭を下げる。
「は、はぁ……」
「はあ、じゃない! オマエも名乗れ!」
そう言われて、アニエルも――
「ボクはアニエル・ウィルキンソン。見ての通り、『さすらいの吟遊詩人』さ!」
となぜか胸を張る。
「こんな樹海の奥地にまで、さすらう吟遊詩人がいるか。バカめ」
はぁ……とため息をつくアト。
「あのう……さっきからお話しされているのは、ギターさん? ですよね?」
シシリーは恐る恐る尋ねてみる。
「申し遅れた。吾はアトロポス。昔より伝わる、魔剣アトロポスである」
「えっ? 魔剣?」
「そうだ、吾は魔剣だ」
「いや、魔ギターだよ」
「アニエルは黙っておれ!」
ギターが喋っている。そして、そのギターは自分を魔剣だと名乗る。
情報が多すぎて、シシリーは困惑してしまう。
「――まあ良い。それで、シシリーと申したか? オマエはどうしてこんな危険な地にいる? 先ほどの魔族は何者だ? どうして、オマエを捕まえようとしていたのだ?」
当然、その質問が出てくることはわかっていた。シシリーはおもむろにイヤリングを外す。
すると――
「それって、ツノ?」
彼女の変化に、アニエルはそう声にする。
「ふん、やはりな――」
アトはどうやら気づいていたようだ。
それまで三つ編み団子ヘアに見えていた部分が、イヤリングを外すと羊のような角に変化したのだ。
「はい、私は人間と魔族のハーフなのです」




