第15話 少年、命令される
私がここにいる?
ハエの翅を生やした悪魔が意味深なセリフを吐くので、少年は怪訝な表情を見せる。
「えーと……だから、さっきから何を言っているの?」
ベルゼブブはクスッと含み笑いをして――
「すぐにわかる」と短く答える。
すると、ベルゼブブの眼が光った!
「これはマズい! アニエル! その目を見るな!」
アトがそう叫ぶのだが、すでにあの『光る眼』を見てしまった後だった!
「えっ? なんで?」
「もう遅い! 人間、自分の首を刎ねろ!」
ベルゼブブは勝ち誇ったようにそう命令した!
だが、少年――アニエルはキョトンとしたままだ。
「えーと……今度は、ヘンなことを言ってるんだけど。何なの? このオッサン?」
そんな少年の反応に、ベルゼブブは困惑する。
「な、なぜだ! なぜ、私の『魔眼』が効かぬ!?」
自分は魔族軍の五虎将と呼ばれるほど、魔族の中でも突出した実力の持ち主。しかも、『魔眼』による精神支配魔法を最も得意としている。
そんな自分が人族の前に姿を現した時点で、人族に勝ち目はないのだ。
そう、あの『光る眼』は精神支配の魔法だった。それを見た相手は彼の言いなりになってしまう。それに例外はなかった。今までは――
なのにこの少年、まったく支配された様子がない??
「魔眼? ああ、なるほど……そういえば、そうだね。ボク、精神支配系の魔法に馴れちゃったから、鈍感になっているんだ」
平然と応えるアニエルに、ベルゼブブは理解できないという顔になる。
「な、何を言っているんだ、キサマは?」
「精神支配系魔法を使うアンデッドの群に何日も放置されたことがあってね。最初は気合で魔法を解除していたんだけど、そのうち、魔法が効かなくなったんだ。いやあ、慣れってスゴいよね?」
気合で解除? そのうち効かなくなった?
「だから、キサマは何を言っている?」
相手が混乱している間に、アニエルは動いた。一瞬でベルゼブブの前に現れる。武技『縮地』という技だ。
「なっ!」
慌てて、彼は『空間移動』した。魔族だけが使える空間操作系の魔法だ。
「あれ? いない?」
捕らえたと思ったのに、突然、姿が消えた。そんな相手に、アニエルは不思議そうな顔を見せる。
十メートルほど先に、ベルゼブブが再び姿を見せると――
「くっ……仕方ない。ここはいったん、引くぞ」
それだけ言うと、ベルゼブブはパッと消えた。彼だけでない。彼の配下である魔族も、順次姿が見えなくなる。
数秒後、その場所には少年と少女、そして風の音だけが残った。




