第14話 少年、少女の歌を聴く
なんとか、少年を引き止めることに成功したシシリー。
しかし、彼ら(彼とギター?)は相変わらず揉めている。傍から見ると、ひとり芝居のようで滑稽にすら見える。
「なら歌勝負で決めよう!」
「彼女の不戦勝だ。勝負を認めない。オマエは二度と歌うな!」
「だから、なんで――」
少年がまだ言いかけている途中で、シシリーは母親に教えてもらった子守唄を歌い出すのだった。
その声は清らかな水のように澄んでいて、やさしく、それでいて心に響くものだった。
一度聴いたら忘れられない――そんな歌声だ。
アニエルも頬を真っ赤にして聴き入ってしまう。彼だけでない。魔族でさえ、その歌声に魅了され動きが止まっていた。
「――どうですか?」
数小節ほど歌ったところで、彼女はそう尋ねる。
アニエルは「はっ!」と我に返ったあと、今度は気恥ずかしそうな表情で――
「ま、まあ……ボクとイイ勝負だな」
と応えるのだった。
「オマエ、頭の左右についているものは飾りか?」
アトのツッコミを無視して――
「だけど、やっぱりダメだ」とアニエルは応える。
「おい、どうしてだ? 彼女の歌声は格別だぞ。間違いなく、客を呼べる」とアトは言う。
「それは――同世代の女の子と一緒になる機会が今までなかったから、コミュニケーションの取り方がわからないんだ」
「そんなことを言っている場合かぁ!」
少年は「はあ……」とため息をついて――
「わかったよ。仕方ないなぁ」
少年は頭を掻いたあと、Uターンしてきた。
「そういうことなので、彼女から離れてもらえない?」
少年がそう声をかけてきたので、魔族たちはバカにしたような笑みを見せる。
「おい小僧、オレたちを見てよくもそんなことを言えるなあ。魔族だとわかっているのか?」
「うん、わかっているよ……魔族といっても、ザコでしょ?」と少年は気にも留めない。
すると、シシリーを取り囲んでいた魔族たちが少年の周りに集まってきた。
「オレたちもずいぶんとバカにされたものだな。なら、その実力を見せてくれよ!」
魔族のひとりが右手に生み出した火の玉を少年目掛けて投げる。人間であれば、魔法を繰り出すためには詠唱が必要なのだが、魔族は無詠唱で放ってくる。したがって、回避する余裕がそのぶんないのだが――
少年は、ノールックでその火の玉を躱してしまった。
「――へっ?」
そんな簡単に避けられると思っていなかった魔族は、一瞬動きが鈍くなる。少年はそれを見逃さなかった。クルッと回転したと思ったら、素早く踏み出し、魔族のみぞおちに拳を撃ち込む。
「ぐふぁ!」
強靭なカラダを有する魔族が、どちらかというとひ弱そうな少年の攻撃でもんどりうって倒れた。
「なっ!」
少年はリュックサックとギターを背負っている。にもかかわらず、そんなハンディをいっさい感じさせないほどの俊敏な動きだ。
魔族たちがまだ対処できていないうちに、少年は近くの魔族にローキックを見舞う。
「うわっ!」と言って、その魔族はうつ伏せで倒れた。
少年の速攻に、浮足立つ魔族側。せっかくの人数的有利がまったく機能していない。
なので、指揮するベルゼブブが「何をしている!」と声を荒げた。
「もうイイ! オマエたちは下がれ! 私が相手する!」
背中にハエの翅が生えた悪魔が歩み寄ると、少年に尋ねる。
「やはり、そういうことか。偶然のフリをしていたが、キサマ、逃亡の手助けに来たんだな? まさか、人間側と内通していたとは――どこの国だ? 王国――というわけではないな? 聖教国か? 帝国か?」
「あのう……言っている意味がわからないけど、攻撃されたから対処しているだけだよ」
「ふん、まだ白を切る気か。まあ、どこの国が加担していようが、吾々の敵ではない。私がここにいる以上、キサマに勝ち目はないのだから」




