第13話 少年、真実を伝える
シシリーは混乱していた。
ここは樹海の奥地。そこにひとりの少年が現れた。人間だが、明らかに凡人ではない。シシリーを取り囲む魔族たちを目の当たりにしても、彼は平然としていた。
そして、道を尋ね、何事もなかったようにその場を立ち去ろうとしている。
その時、女性の声が聞こえた。
「おい、アニエル! どうして、彼女を助けないのだ?」
一瞬、どこから声が聞こえてくるのかわからなかった。だが、どうやら少年の背中辺りから聞こえてきたと気づく。少年はギターを背負っていた。
つまり――
(何なの、この少年? それに、喋るギター??)
「助ける? どうして?」
少年は、「わけがわからない」という表情を見せる。
「どうしてもこうしても、この状況、少女が悪いヤツらに囲まれて困っているようにしか見えないだろ!? それとも何か? 本当に道を尋ねただけか?」
「うん、そうだよ。数日前から、方角がわからなくなって……」
「本気で迷子になっていたのかよ! それで、この危険な樹海をウロウロするな!」
少年とギター(?)の漫才みたいな会話に、少女と魔族はただ唖然とするばかりである。
「ああ、もう! いいから彼女を助けろ!」
「だから何で? 別に『助けてほしい』って言われてないよ?」
「――えっ?」
シシリーは彼らの会話(?)に反応する。
(それって、助けを求めれば自分に味方をしてくれる――ということなの?)
だが、彼女は迷っていた。この少年から感じる気配は、たしかにただならぬものだ。だとしても、彼は人間。それを自分の都合で巻き込んでいいのだろうか?
しかも相手は魔族軍、五虎将のひとり、ベルゼブブである。いくらなんでも分が悪すぎた。
「おい、用が済んだのなら、さっさと行きなさい。こちらは忙しいのだ」
いつの間にか、人の顔に戻っているベルゼブブがそう急かすと、少年は「ほら、怒られたじゃないか」とギターに向けてぶーたれる。「それじゃ」と少年が背を向けたので、シシリーは焦る。この機会を逃したら、絶対に助けは来ない。それは明らかだった。
それで思わず――
「助けてください!」
彼女はそう叫んでいた。
「ほら! 彼女も『助けて』と言っているぞ」
「うーん。でも、助ける理由がないし……」
「イヤイヤ、いたいけな少女が助けを求めている以上に、どんな理由が必要だと言うんだよ!」
なんか揉めているようだが、とりあえず引き止めることには成功した。
だが、まだ少年は乗り気でないようだ。あと、もうひと押し。何か、自分を助けるに足る理由を与えてやれば……
(理由? そうだわ。彼が背負っているのはギター! それなら――)
彼女はこう声にした。
「私、歌が得意なんです!」
「――えっ?」
少年は振り向いた。ヨシ! 反応している!
「アナタ、吟遊詩人ですよね?」
すると、少年は「なんだ、わかってしまったか」と、とても嬉しそうだ。
「楽器を背負っているから、そう思っただけだろ?『吟遊詩人』などではないぞ。本当は『人生の迷子』だ」
「アトは黙ってろ!」
相変わらず内輪揉めしているようだが、それは無視して……
ここは、その線で彼を説得しよう!
シシリーはそう考える。そして――
「もし、助けていただけたら、私、歌います! 一緒に旅をしませんか?」
一緒に旅をする? 吟遊詩人として?
「はい! アナタがギターを弾いて、私が歌う。どうでしょう?」
彼女の提案に、少年は「なるほど……」と呟く。
「しかし、それならボクより歌が上手くないと、ダメだな」と少年はニヤリとした。
「ああ、それなら問題ない。オマエよりはるかに上手い」とアト。
「なんでわかるんだよ!」
「当然だ! オマエより歌が下手な人類はこの世界に存在しない」
「そこまで、言わなくてもいいだろ!」
「そこまで、言わなければならないほど、オマエの歌は壊滅的なんだ!」




