第9話 噂話
詰所を後にし、早々に部屋へ戻って来た。話していただけで謎に疲れた。HPを回復するように、ソファへ全体重を預けてくつろぐ。エレナは「飲み物をお持ちしますね」と言って、部屋に向かう途中で別れた。
(あー…静かだ)
さっきまでの騒がしさが嘘みたいだ。騒がしかったのは、主に私の心の中だったのだが。
ソファに沈み込みながら、天井を見上げる。今日の出来事を順番に思い返していた。
" ノア "
豪快に笑うと口が大きい。ギャップ。可愛かった。ルイスをからかうのが、好きなのかもしれない。
" レオ "
王道クール系。天然かも? 無口で存在感がある。ノアとは妙に息が合っていた気がする。
" ルイス "
エレナの弟。落ち着いていると思いきや、オドオドした反応。今のところ、予想外の塊。
「濃いなー…濃すぎる。まだ今日始まったばっかりなんだけど…」
呟いて目を閉じた。
(もう十分じゃないか…? 今日、終わってもいいくらい)
そんな事を考えていると、扉をノックする音が。返事をすると、エレナが入ってきた。
「お飲み物をお持ちしました」
「ありがとう」
目を開けると、エレナは穏やかに微笑みながら、カップに紅茶を注いでいた。ソファから立ち上がり、朝食をとった、テーブルと椅子の方へ移動する。
「ミルク、お入れしますね」
「おぉ……本格的」
流石はメイドだ。慣れた手つきで、手際はよくこなしていく。感心してしまう。
「こちら、ミルクティーです」
お礼を言いカップを受け取る。紅茶の類は、あまり好きではない。だからといって、飲めないなんて言えない。せっかく、用意してくれたのだから。恐る恐る口をつけた。
「美味しい…」
「よかったです」
エレナは嬉しそうに笑っていた。それにつられて、私も笑ってしまう。
(……ミルクティーって美味しいのか。新発見。好き嫌いせず、前から飲んでればよかったかも)
エレナのおかげで、落ち着きを取り戻していく。嫌いな物が一つ克服出来た。
「そういえば……エレナ、いつの間にか居なくなってたよね? 」
「ヨミ様がレオ様に " 爆睡でした! " と、お答えになった後に、ルイスを探しに行っておりました。ヨミ様には少し離れますとお伝えしたはずですが……」
「全っっ然、気付かなかった…!」
あの時は、周りを気にする余裕が無かったせいだろうか。テンパり過ぎて、耳に入ってこなかったのかもしれない。
「あのお二人の前では、緊張してしまう方も多いですし…私の声が届いていなくても、仕方ありませんよ」
「えっ。エレナも緊張するの?」
「私はしませんね」
ハッキリと言い切られた。悩む余地も無く。
「つ、強い」
「緊張していては、ここでメイドなど務まりませんので」
「確かに…」
納得してしまった。
「ヨミ様も慣れますよ!」
「無理な気しかしない!」
即答だった。慣れるなんて、心臓がいくつあっても足りない。
「そんな事ありません! ヨミ様は順応性が高い方なので!」
「どこをどう見て…」
「やはり…! ここに来られてから、一度も泣き言をおっしゃらない所です! 早く元の世界に帰りたい等、言わない所がです!」
「昨日もそんな事言ってたね…」
昨夜のエレナとの会話を思い出した。
(イケメンの衝撃が強かっただけなんて言えねー…)
エレナは力強く頷いていた。今さら、泣き言を言わない理由を説明するの違う気がした。
早く戻りたいとは特に思ってはいない。戻ったら戻ったで、進路の事を考えなければいけなくなるからが一番の理由だ。
両親や友達には会いたいと思うが、別に一生会えないというわけでもないし。
これが、異世界転生とかだったら話が変わってくる。だが、これは異世界召喚だ。
(まぁ、私がバカなくらい楽観的なだけなのかもしれない)
まだカップに残っているミルクティーを口に運ぶ。
(ま、いっか……)
カップをテーブルに戻し、視線を上げると私の事を見ていたエレナと目が合った。何故、見ていたのか不思議に思い首を傾げる。
「もしかして、私…余計な事を言ってしまいましたか?」
「違う違う! 少し考え事してただけだよ」
そう言うと、エレナはホッとしたように微笑んだ。
「それなら、よかったです」
考え事をしていた時に、変な顔でもしていたのだろうか。不安にさせてしまったらしい。
(気をつけねば)
考え事をする時は、表情に気をつける事を決意した。
(あっ。エレナに聞きたい事あったんだよな)
聞きたい事とはルイスの事だ。普段から、あんな態度なのか気になって仕方が無い。次にいつ、こんな機会が訪れるか分からないし。
「エレナに聞いたい事あるんだけどいい?」
「はい、何でしょう」
「ルイス…さんの、あの反応って普通なの…?私、何かやらかしたから変な反応してたり…」
聞いておいて、段々不安になってくる。私は知らないうちに、何かやらかしたのではないかと。
「いいえ。あれは普段通りの反応ですね。ですので、ヨミ様のせいではありません。あの方は女性への免疫が無く……女性を目の前にすると緊張で固まり、喋ったかと思うとオドオドとして、すぐ逃げ出します」
「えっ、そうなんだ…」
私が何もやらかしていなかった事への安心と、意外過ぎる一面を知った事で、気の抜けた声が出る。
(女性への免疫が無い……私のイケメンへの免疫が無いのと一緒か! だから、あの反応…親近感)
勝手に親近感を抱いてしまう。だが、仕事中に支障をきたさないのか。
「でも、団長なんだよね…? 」
「その点は全く問題ありませんよ」
またもキッパリと断言された。
「仕事中は大丈夫みたいな…?」
「はい。むしろ、誰よりも冷静です」
見た目は、まさに冷静そのもの。
(オンとオフの差が激しい…)
差が激しくて風邪をひいてしまいそうだ。オンの時の彼は知らないが、想像は安易に出来る。出来てしまう。
「ちなみに、どんな感じに…?」
興味本位で聞いてみる。
「指示は的確で無駄は無く、状況判断も早いです。皆からの信頼も厚いです」
正しく想像通りの性格。想像通りすぎて、思わず「おぉ〜」と声が出てしまった。
「完璧じゃん」
「団長としては申し分ありませんね」
またもや断言された。エレナは断言する時は、とことんバッサリと言い切るタイプらしい。
(迷いが無さすぎるな)
少しだけ圧を感じてしまう。
「……言い切るね」
「昔から見てきていますので」
エレナは柔らかく微笑んだ。今まで見てきた微笑みとは違い、どこか昔を思い出しているような表情だった。
(お姉ちゃんの顔って感じがする…!)
お姉ちゃんの顔をするんだと意外に思っていると、外していた視線が私に戻ってきた。
「どうかなさいましたか?」
「ううん。何でもないよ」
流石に思った事は言えずに、首を振った。
「あっ、ヨミ様」
エレナは何か思い出したように、私の名前を呼んだ。首を傾げ何の話かと視線を向ける。
「私、面白い噂を耳にしたんです」
「面白い噂?」
「はい。最近、城下町に謎の男性が現れるそうで」
「えっ、何それ。不審者の話?」
「いえ、違います。話によるとですね……」
エレナは一度言葉を区切った。
興味にひかれまま前のめりになり、エレナの言葉に聞き入る。
「一人で歩いていると、突然辺りが暗くなると霧が立ち込め、気配もなくフードを被った男性が現れるみたいなんですよ」
不審者の話かと思っていたのに、急にホラー展開になってきた。
「" 誰? " と謎の男性に問いかけると、自分の事は一切語らずに……」
そこで、また言葉が区切られた。
「占ってくれるらしいんですよ。それも、百発百中で当たるらしいんです!」
緊張感が一気に無くなった。
(占いするだけなら、普通に現れろよ…!)
無駄に演出が凝っているせいで、怪しさが増している。私だったら、一目散に逃げる。
「……占った後は居なくなるの?」
「煙のように消えるみたいですよ」
「こわっ! 不審者じゃん!」
思っていた事が、そのまま出てしまう。
「城下町では、自分も占ってほしいと、その男性を探し回っている方もいらっしゃるみたいです」
「まじか……」
とんだ物好きがいるみたいだ。この話を聞いて、私は城下町に行った時には、エレナから絶対離れないと決めた。




