第10話 いざ、城下町へ
「⎯⎯ このくらいですかね。後、必要な物は…」
エレナがこれからの旅に、必要な物を私に確認しながら、買う物を決めていた。私は何を買えばいいのかすら分からないので、ほとんどエレナが言った事に同意するしかなかった。
(買う物、結構あるなぁ…)
少し冷めてしまったミルクティーを飲み干した。カップが空になったのに気付いたエレナは、もう一杯いかがですかと声をかけてきたが、首を横に振った。
「お下げしますね」
「ありがとう」
エレナは片付けのために部屋から出て行った。する事もないので、私はソファの方へ移動し、腰を下ろす。
さっきの噂話の事を、ふと思い出す。
(あの噂、本当なのかな……)
占いが百発百中当たる事より、フードの男の方が気になっている。気配もなく現れて、煙のように消える。なんとも、異世界ならではの話だ。
私はエレナと絶対に離れないと決意したし、出会う事はないだろう。
出会ってしまった時は……全速力で逃げる。逃げまくる。逃げる一択だ。そう決めて、息をついた。
聞き慣れたノック音。返事をするとエレナが戻ってきた。
「お待たせ致しました」
「おかえりー」
顔を上げると、目が合う。すると、エレナは微笑んだ。
「では、参りましょうか」
「あーい」
買った物を入れられるよう、スクバを手に取り、リュックのように背負う。
エレナに続いて扉へと向かい、そのまま部屋を後にした。
城から城下町まで、距離があり馬車で移動する事になった。初めての馬車に、少しだけワクワクしてしまう。
エレナに続いて馬車へと乗り込む。中は思っていたより広かった。向かい合わせの席に腰を下ろした。
程なくして、馬車がゆっくりと動きだした。
(おぉ……)
振動は少なく、ゆっくりと進んでいく。窓の外に視線を向けると、見慣れない景色が広がっていた。
ちょっとした観光気分で眺めていると、遠くに建物が増えていくのが見える。近付くにつれて、人の姿も見えてくる。行き交う人の姿や、並んでいる建物がハッキリと見えるようになった。
馬車の速度がゆっくりと落ちていく。がだん、と小さく揺れた後、静かに止まった。
「着きましたよ」
御者の声が聞こえてくる。
エレナに続いて馬車を降りると、そこには賑やかな城下町の光景が広がっていた。
人々の話し声や呼び込みの声が飛び交い、辺りは活気に満ちている。
見慣れない物が多く、興味に惹かれてしまい立ち止まりそうになる。
「はぐれないようにして下さいね」
前を歩いていたエレナから声がかかり、我に返る。
「あ、うん」
慌ててエレナの横へと並んだ。並んで歩きながら、周りに視線を向ける。両側には屋台が並び、色とりどりの商品が売られている。
「気になるものがあれば、遠慮なく言ってくださいね」
「うん、わかった」
ふと一つの屋台に目が留まる。花を模した髪飾りが並んでいて、足を止めた。私が立ち止まると、エレナも一緒に足を止める。
「見てみましょうか」
「いいの?」
「もちろんです」
言葉に甘えて、一緒に屋台へと近付く。
髪飾りだけかと思っていたが、アクセサリーも並んでいた。繊細に作られた物ばかりで目が奪われる。
並べられた中から、一つ手に取った。
「これ……」
手に取ったのは髪飾り。私の鎖骨下にある模様と同じ花だった。
「気に入りましたか?」
「この花……なんて名前?」
私の問に、エレナは微笑みながら答えてくれる。
「⎯⎯ " ルミナス " と呼ばれている花です」
「ルミナス……」
小さく呟きながら、もう一度髪飾りへ視線を落とす。
自分の鎖骨下にある模様と同じだ。何故、この花の模様があるか分からないが、名前が分かっただけでも、謎が少しほどけた気がした。
「いかがなさいますか?」
「大丈夫。行こ」
髪飾りをそっと置き、その場を離れた。
そのまま、いくつかの屋台や店を見て回った。必要な物を少しずつ選び、エレナが淡々と買っていく。ひと通り買い終える頃には、荷物で両手が塞がっていた。
最初はエレナに「私が持ちますので」と言われたが、荷物は私が持つと譲らなかった。
「後は、お洋服だけですね」
「あーーい」
「どんな感じがいいとか、ありますか?」
どんな感じがいいか聞かれても、すぐには思いつかない。出来れば、制服のままがいい。慣れていて楽だからだ。
「うーん……出来れば今のままがいいんだけど…」
エレナは私の制服を見ながら、考え込んでいる。
「では、一緒のものを作りましょうか」
「そ、そんな事が出来るの!?」
エレナは落ち着いたまま頷いた。
「はい。仕立て屋に頼めば可能ですよ」
「じゃ、お願いしようかな…」
嫌な顔もせずに、私のお願いを承諾してくれた。
「仕立て屋に向かう前に、何かお食べになりましょうか?」
「いいの?」
「勿論です」
「なら、何か食べたい! 美味しいの!」
エレナは小さく笑って「美味しいもの食べに行きましょうか」と、言ってくれた。
一旦、待たせている馬車に荷物を置きに行った。それから、エレナと一緒に飲食店へと向かった。
店内に入ると、外の賑やかさとは違い、落ち着いた空間が広がっていた。店員に空いている席へ案内される。
窓際の席に腰を下ろした。エレナも向かいに静かに座った。
ほどなくして、メニュー表が差し出された。軽く頭下げ、受け取る。ページを開いて、どんな料理があるか目を通す。知っている料理名もあれば、知らないのものもあった。
「うーん……何食べよ」
ページを捲りながら、何を食べようか悩んでしまう。まだ知らない料理を頼む度胸は無く、知っている料理の中から選ぶ事にした。
「ピザ食べたいんだけど、エレナも一緒に食べない?」
「ヨミ様がよろしいのでしたら!」
「じゃ、ピザ食べよ! 後は……ミネストローネにしようかな」
エレナが店員を呼び、注文を済ませてくれた。早く料理こないかと思いながら、視線を窓の外へと向けた。
先程までは見なかった、制服姿の男子達が通りを行き交っていた。白のブレザーにワインレッドのネクタイ。黒いスラックス。
「貴族学園の生徒達ですね」
私が目で追っていたのに気付いたのか、エレナが説明してくれる。
「城下町の外れにある、貴族の子息や一部の特待生が通っている貴族学園の生徒達です」
「そうなんだ」
短く返事をし、また目で追っていた。どんな学園かの生徒とかより、制服が可愛い。
(白のブレザーいいな。ゲームとかアニメみたいで可愛い)
そんな事を考えながら、白い背中が人混みに紛れていくのを見送った。そのまま、しばらく視線を戻さずにいると、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「お待たせしました」
店員の声と共に料理がテーブルへと運ばれてくる。湯気が立っているスープ、焼きたてのピザが目の前に並んだ。
エレナの分も運ばれ、テーブルの上が一気にご馳走でいっぱいになる。
「冷めないうちに、いただきましょうか」
「賛成!」
声が弾む。ピザから立ちのぼる香ばしい匂いに、お腹がなりそうになるのを堪える。エレナは私の分のピザを取り分けてくれ、皿に置いてくれた。
「ヨミ様、どうぞ」
「ありがとう、エレナ!」
お礼を言い、「いただきます」とエレナと一緒に言った後、私はピザに手を伸ばして頬張る。
「美味しすぎ!」
「ふふっ。よかったです」
嬉しそうに目を細め笑っていた。私もつられて笑ってしまった。それから、私は夢中で食べていった。
食べ終わり、一息ついた。
「そろそろ行きましょうか」
「うん、行こ」
私達は席を立った。外に出ると、賑やかさが戻っていく。さっきまでの静かさが遠く感じる。
「次は仕立て屋ですね」
「あーい」
軽く返事をして、エレナの隣に並ぶ。来た時より人が多く、通りは更に賑わっている。
「この時間帯は人が多くなりますね」
「気を付けなきゃ」
「大丈夫ですよ。はぐれてしまっても、私が見つけだしますから!」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
「頼もしすぎる!」
「お任せ下さい!」
そんな、やり取りをしながら仕立て屋に向かっていた。エレナから離れないように気をつけながら、周りの店や行き交う人達を眺めていた。
「もう少しで着きます」
短く返事をして、そのまま後をついていく。エレナが店の前で足を止め、私も隣で立ち止まった。
「着きましたよ。中に入りましょう」
エレナに続いて、店内へと入っていく。店内には様々な生地が並び、色や質感の違う布が棚に収められていた。マネキンや完成した服が飾られている。
「いらっしゃいませ」
奥から女性が出てきた。エレナは一歩前に出て、頭を下げる。私もつられてしまい、頭を下げた。
「こちらの方の服を仕立てていただけますか?」
「承知しました。どんな服をお求めですか?」
「今、着ているのと同じものでお願いします」
女性は「なるほど」と呟くと、私の制服を一通りじっと見ていた。ノートに何かを書き留めながら、時折、頷いている。視線が上がると、ノートを閉じた。
「かしこまりました。では、採寸しましょう」
採寸と聞き、私は変に緊張してしまう。
「こちらへどうぞ」
女性に案内され、奥の部屋へ移動する。試着室と変わらないような、個室だった。
「上着お預かりします」
ブレザーを脱いで渡すと、ハンガーにかけてくれた。
「では、採寸していきますね」
「は、はい」
緊張で声が上ずる。
「リラックスしてくださいね」
緊張しているのに気付いたのか、優しく声をかけてくれた。慣れた手つきでメジャーを広げ、採寸していく。
肩や腕に軽く触れられる度に、少しソワソワしてしまう。こんな、きちんとした仕立て屋で採寸をされた事なんて無いので、リラックスしたくても出来ないでいた。
「すぐ終わりますからね」
そう言われて、少しだけ肩の力が抜ける。それでも落ち着かないまま、私はされるがまま立ち続けていた。
やがてメジャーが離れ、女性が小さく頷いた。
「これで一通り終わりましたよ」
「お疲れ様です……」
緊張しているせいか、労いの言葉をかけてしまった。女性に笑われてしまった。
「緊張されてましたね」
「ば、バレてました?」
「えぇ、だいぶ」
あっさり断言されてしまい、恥ずかしくなり視線を落とした。
「初めてなら緊張しちゃいますよね」
何気ない一言に今になって緊張が解けた。
「仕上がりを楽しみにしていて下さいね」
私は「はい」と小さく返事をして、ブレザーを受け取って個室から出て行く。エレナは店内を見ながら待っていて、私に気付くと駆け寄ってきた。
「終わりましたね。私は店主と話してきますので、少々お待ちください」
「待ってるね」
エレナは頷き、店主の方へ向かっていた。私はブレザーを着て、見れなかった店内を見て回った。
しばらくすると、エレナは話し終わったのか私の元へ戻ってきた。
「お待たせしました。それでは、帰りましょう」
「帰ろ帰ろ〜」
軽い調子で返すと、少しだけ目を細め微笑んでいた。
そうして私達は仕立て屋を後にした。




