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第8話 探索は命懸け


 私は興味任せに、歩き回る。扉を見つける度、何の部屋か聞くと、エレナは丁寧に教えてくれる。私が居た部屋は三階だった。階段を降りていくと、二階の窓から広い庭が見えた。


 「あそこ…行ってもいい?」

 「行きましょう!」


 エレナに案内され、お城の裏にある庭の方へと、足を踏み入れた。奥へ進んでいくと庭園があり、鮮やかな花々が咲いている。花を眺めながら、道なりを歩き続けていると、いつの間にか庭園を抜けてしまった。その先には、石造りの建物が見えた。


 「あれ何の建物?」

 「あそこは、騎士団の詰所です」

 「へぇ〜…」


 あそこにノアやレオが居るのだろう。気になって見ていると、立ち止まっていた私にエレナが声をかけてきた。


 「行ってみましょうか?」

 「……え?」

 「ノア様とレオ様もいらっしゃいますし…行きましょう!」

 「ちょっ、ちょっとエレナ!?」


 腕を掴まれ、そのまま引っ張られていく。一瞬のことで抵抗も出来ず、騎士団の詰所へと、引きずられながら連れて行かれた。


 遠くからでは建物しか見えていなかったが、近付いていくと騎士の人達が外で訓練をしているのが見える。その中には、遠目でも見てわかる二人がおり、何かを話しているみたいだ。遠くからでも分かってしまうイケメンオーラ。


 「戻る戻る!! 今すぐ戻る!」

 「大丈夫ですよ!」

 「いや、私が大丈夫じゃない! 心臓が! 目が!」


 思ったより声が大きかったのか、二人が振り返ってしまった。


 「あっ、やば…」


 思わず声が出てしまった私を気にする様子も無く、エレナに引きずられていく。彼等との距離が徐々に縮まっていく。


 (無理無理無理無理……!! 朝からイケメン見るなんて!! 目が耐えられない…!)


 手を振りほどき一目散に、ここから逃げ出したいが、エレナの力は思っている以上に強く逃げられない。無理に振りほどいた場合、私が転ぶかエレナが転ぶかだ。最悪二人同時に転ぶかもしれない。


 (もう私の目が、やられるのは確定だ……)


 そう確信を持ったのと同時だった。私は彼らの前まで、引きずられていたのだ。エレナは私の腕から手を離すと、平然と彼等に挨拶をしていた。エレナの後ろへ隠れるように、一歩下がった。


 「ヨミちゃん、おはよ」


 私に最初に挨拶してきたのはノアだった。昨日と変わらず私に、爽やかスマイルを向けてくる。


 「お…おはようございます」


 目を合わせ挨拶した方がいいと思ったが、やはり私には無理だった。失礼だと分かってはいるが、視線をすぐさま逸らし挨拶をした。


 「……昨晩は、よく眠れたのか」


 次に声をかけてきたのは、予想もしていなかった人物だった。低い声で落ち着いた声。ゆっくりと視線を上げると、腕を組んだ無表情のレオが視線だけを私に向けていた。

 

 「え…? あっ、はい! 爆睡でした!」


 話しかけられないとは思ってもいなかったせいで、聞かれてもない事までも報告してしまった。


 (恥ずかしすぎる…! 何で余計な事まで、私は言ってしまったんだ…! 爆睡とかいらなかったよね、絶対!)


 恥ずかしさで死にそうになってしまう。今すぐにでも、穴があったら入りたい。


 「そうか。それならいい」


 それだけ言うと、視線は外された。


 (うわ…終わったわ。絶対、呆れられた。私のHPは残り少ない…)


 淡々とした反応に、別の意味でダメージを受ける。ニコリともしない彼はノアと正反対だ。彼に微笑まれたら、それはそれで私の目と心臓は耐えられないだろう。


 「これでもレオはヨミちゃんの事、心配してたんだよ」

 「え……?」


 心配されているとは、少しも思っていなかった。心配をされる事なんて何も無いのだから。


 「いらない事を言うな」

 「ははっ。ごめんごめん」


 予想外のノアの言葉に驚き、レオの顔を見つめてしまう。目が合うと、気まずそうに逸らされた。


 (心配…? シンパイ…? ………嘘!? 私を心配!?)


 心配という言葉が頭の中を埋め尽くしていく。レオの反応を見る限り、ノアの言っている言葉は冗談とかでは無く本当の事みたいだ。

 だが、心配されるような事なんて何一つ無い。思いつきもしない。


 「いきなり…この世界に連れてこられて、不安で眠れていなかったら、どうしようってね」


 ノアの言葉で思い出した。彼はクール系イケメンだという事を。


 (私は忘れていた。クール系は無表情で無口で何を考えているか分からないが、内心では心配していたりする事を…)


 他には色んなパターンのクール系がいる。実は天然だったり、無自覚で独占欲が強かったり自己犠牲型だったり。


 (彼は…王道クール系イケメンだ!)

 

 現実では存在しないと思っていた。今までは二次元だけの存在だと思っていた。だが、今、夢に見ていたような男性が居るのだ。


 (夢が詰まってんな! 異世界ってやつはよ…!)


 お金を払わなくても、こんな体験が出来るなんて。最高の世界だ。


 (もうアプリだったら、いくらでも貢ぐレベルでガチャリまくるんですが? )


 こんな馬鹿な思考を巡らせていると、


 「…本当に大丈夫なのか?」


 低音ボイスが聞こえてきた。


 「え、あっ。だ、だだっ大丈夫です! 元気です! 元気がありあまってるくらいです! 今なら50m走余裕で6秒だせる自信がありますね!」


 言い終えた瞬間、私はやってしまったと悟った。謎に50m走を6秒だせる何て言ったのだろう。足なんて速くも無いのに。


 (あーー…さっきまでとは、別の意味でHP削れたわ)


 異世界二日目にして、私はやってしまった。一日に何度やらかせば気が済むのだろうか。いや、逆に良かったのかもしれない。早い時点で馬鹿な事を言ったおかげで、これからも変な事を口走っても何とかなるかもしれない。

 今、ポジティブに考えていないと、この静寂に耐えられない。訓練をしていた他の騎士達の掛け声も、剣がぶつかり合う音も止まったのかと感じられた。聞こえるのは速く脈を打つ心臓の音。


 (誰でもいいから、私を殺してくれ…)


 出来るならば、この場から逃げ出したい。そんな事を思っていると、また低音ボイスが聞こえてくるのだ。


 「速いな」

 「……え?」


 何の事を言っているのか分からない。何が速いのか。なんの事か分からずにいると、

 

 「6秒は速いよね。ヨミちゃん、すごいよ」


 ノアはレオの言葉に対し、頷きながら共感していた。私の口走った言葉を真に受け、速いと言われるとは思ってもみなかった。


 (え…そこ…? そこなの!?)


 この人達は天然で言ったのか、気遣いで言ったのか分からない。この際、どちらでもいい。ここは全力で否定させてもらおう。


 「あっあれは…! 何というか! 勝手に言葉がでてきただけでして! 6秒なんて数字を叩き出せるほどの、足はしていないです! 」


 全力で否定をしただけなのに疲れてしまった。


 「ははっ! ごめん、ごめんね」


 微笑んだ時とは違い、口を大きくあけ豪快に笑っている。こんなに大きく口をあけて、この人は笑うと思ってもいなかった。呆けてしまっていると、笑い声が徐々に収まっていくと、


 「ごめんね。いきなり、笑いだしちゃって…アレ、ヨミちゃん?」


 呼ばれて、はっと我に返る。


 「…あっ、はい! 」

 「どうかした? もしかして、笑ったの気に触ったかな」

 「全く問題ありません!」


 思わず姿勢を正して答えてしまう。


 「本当に?」


 姿勢を正したせいで余計に気に触ったのかと思われてしまった。


 (勘違いさせてどうするんだ、私!)


 「本当の本当です! 笑うとストレス軽減にもなりますし、リラックス効果や、幸せホルモンが分泌されますし、後は…何だったかな…免疫力が上がったり? 」


 自分でも何故こんな説明をしているのか分からなくなっている。ただ、勘違いさせてしまったのは、まずいと思い口が勝手に動いていた。


 「へぇ、そんなに良いことがあるんだ…」

 「そっ、そうなんです! だから、全然気にしてません! 」


 言い切ると、ノアは安心したように微笑んだ。


 「そっか。なら、よかった」


 さっきまで、私のやらかし発言で、どうなる事かと思ったが、何とか収まった。今回の事で自分の知らなかった事が分かった。それは、自分が思っていた以上にイケメンへの免疫がないらしい。


 ( ……これは、今後かなりまずいのでは? )


 ちらりと二人を見る。視界に入れるだけで心臓に悪いし、目にも悪い。


 (あー…慣れる日なんて来ないわ、これ)

 

 彼らの方を見ていたせいで、レオと目が合ってしまう。


 (やばい、やばい)


 一瞬で目を逸らす。収まっていた心臓が、また速くなっていくのが分かる。


 (私の心臓いくつあっても足りないんだが! 目合っただけなんだが! )


 「ヨミちゃん? どうかした?」

 「いえ! 何でもないです!」


 少しだけ早口になる。自分を落ち着けるように、バレないように、そっと深呼吸をする。


 (落ち着くんだ、私。落ち着け……落ち着け…)


 「そう? 」

 「はい!」


 落ち着きを取り戻し、何とか平常心で答えられた。余計な事も言わずにいる事に安堵していると、


 「無理はするな」


 目が合って、私の心臓を破壊しかけた張本人が話しかけてきた。


 (ぐっ…! HPがゼロに近付いていく気がする! )


 これ以上、HPを削られないよう、力強く頷く。それだけで限界だ。これ以上は、今日一日使い物にならなくなる。

 心臓を何とか持ち堪えていると、遠の方から" ヨミさまーー! "と、私の名前を呼ぶエレナの声が聞こえてきた。傍にエレナがいない事に気付く。


 「あ、あれ? いつの間に…」


 いつの間に居なくなっていたのだろう。最初は居たのは覚えているが、私がテンパり始めたあたりから記憶が曖昧だ。


 (まじで、いつから居なかった!?)


 思い出そうとしても思い出せずにいると、再び名前を呼ばれた。辺りを見渡すと、城の方から現れた。

 エレナだけではなく、知らない人物も一緒だった。私に気付かれたのを確認したエレナが、軽く手を振りながら近付いてくる。

 手を振り返すが、エレナの一歩後ろにいる人物が気になってしまう。


 (……誰?)


 服装で騎士の方だと分かるが、ノアやレオとは違う気がするのだ。周囲で訓練している騎士達よりも、どこか落ち着いた空気を纏っている。

 視線を向けていると、その人物と目が合った。


 (うっ…! アンタもイケメンかよっ! )


 つり目で、右の頬にはホクロが二つ。ブルーブラックの髪が落ち着いた雰囲気を更に引き立たせている。


 (これで眼鏡をしていたら、インテリキャラじゃないか!)


 初対面のイケメンを見ると、つい分析してしまう癖がある。レオやノアを初めて見た時もそうだった。今は分析している場合じゃないと分かっていても、やってしまう。


 「ヨミ様。こちら、騎士団長のルイス様です」

 「…団長?」


 思わず声が漏れた。


 (ただのイケメン騎士じゃなかった…!)


 エレナよりも背の高い彼を見上げると、彼もこちらを見ていた。ただ見つめ合うだけで、どちらも言葉を発しない。


 (……気まずい! 気まず過ぎる! )


 目を逸らしたいけど、逸らせない空気。私のHPが尽きる方が先か、それとも何か喋ってくれるのが先か。


 「団長。ヨミちゃんが固まってますよ?」

 「固まってるのは、団長も一緒だろ」

 「……この弟は」


 エレナの言葉で、私はルイスから目を逸らし、エレナの方を向いた。


 「……エレナの弟なの!?」

 「恥ずかしながら…ルイスは私の弟なんです」


 衝撃的な事実に、思わず二人を交互に見てしまう。顔立ちは似ていないが、どちらも美形なのは確かだ。


 「美形なのは遺伝なのか……」

 「よっ、ヨミ様…もしかして…!」

 「え? な、何」

 「ルイスみたいなのが、タイプなんですか!? 」

 「タイプとかじゃない! ただ、すっごいイケメンだなーって思っただけだから! 」


 変な誤解をされてしまい、慌てて否定したが、本人を目の前に、イケメンだと思ったと言ってしまった事が、私自身にダメージがきた。エレナ相手だから気が抜け、本当の事を言ってしまったのだから。


 (あーーっ! また余計な事を言った! 言ってしまった!)


 もうルイスの方は見られなくなる。私は今日一日で何回やらかせば気が済むのだろう。


 「団長、よかったですね。ヨミちゃんにイケメンだと思われていて」

 「ノア…団長をからかうな」

 「別にからかってなんかいないよ?」


 薄ら笑い混じりの声に、私のHPがじわじわ削られていく。


 「あっ!! あ、ありがとうございますっ!」


 いきなりの大きな声に、肩がびくりと跳ねた。声の主は、今まで黙っていたルイスだった。


 「い、イケメンだと…思っていただき、ありがとうございますっ!」


 謎に感謝されてしまった。思っていた感じと違い、私は呆然とする。レオ以上にクールな人だと思っていたせいだ。私の予想とは180度違っていた。


 「い、いえ…どういたしまして?」

 「……姉さん! それでは、俺はこれにて! よ、ヨミ様もこれでっ! ノア、レオ! 行くぞ」


 言い終えると即座に詰所の中へと入って行った。


 「それじゃ、ヨミちゃんまたね」

 「またな」


 二人もルイスの後を追い、行ってしまった。


 (…え? 何、今の…言い逃げされた感ある…)


 暫くその場に立ち尽くす。エレナは平然としているせいでか、私一人だけが取り残された気がした。


 「ヨミ様。私達も行きましょうか」

 「あ、うん。行こっか…」


 アレは何だったんだろうか。何故、感謝されたのかも分からないし、思っていたよりもオドオドとした反応。結局、よくルイスの事は分からないまま、私はエレナと共に歩きだした。


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