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はじめての出会い





 その日、屋敷の玄関に珍しく子どもの声が響いた。


 「ばあちゃーん! あそびにきたー!」


 元気いっぱいの声の主は、マーラの孫――カイ、5歳。

 泥のついた靴のまま駆け込もうとして、マーラに首根っこをつかまれる。


 「こら、カイ! 土を落としてから入りな!」


 「はーい……」


 ぶつぶつ言いながら靴を脱いだカイは、屋敷の中をキョロキョロと見まわす。


 「ばあちゃん、あかちゃんって、ここにいるの?」


 「リュナちゃんのことかい? ほら、あそこにいるよ」


 リュナはリビングの柔らかな絨毯の上で、ころんと寝転がっていた。

 淡い銀髪がふんわり広がって、指先をぱたぱた動かして遊んでいる。


 カイの目が、きらっと輝いた。


 「ちっちゃ!! かわいい!!」


 マーラは注意を促す。


 「優しくね。赤ちゃんはびっくりしやすいんだから」


 「わかってるよ!」


 カイはとことこと歩み寄り、しゃがみこんだ。

 リュナは見知らぬ小さな人影に気づき、ぱちぱちと瞬きをする。


 「……あー?」


 手を伸ばしたリュナの指先を、カイはそっとつついた。


 「ぼくカイ! きみ、リュナちゃん?」


 リュナは答えられないけれど、

 目をまんまるにして、カイの顔をじっと見つめた。


 カイは少し照れながら笑う。


 「……なんか、にっこりしてる?

 ばあちゃん、このこ、ぼくのこと好き?」


 「赤ちゃんはね、興味があるとじーっと見るんだよ」


 「そっか! じゃ、もっと見せてあげる!」


 カイはポケットから、小さな木の笛を取り出した。

 自分で削ったという、不器用な手作りの笛だ。


 「これ、ぼくのたからもの! あげないけど見せてあげる!」


 リュナは笛に両手を伸ばし、つかもうとして――

 ちょっとよろけて前に倒れかけた。


 「わっ!」


 カイはとっさに両腕で受け止めた。


 「おおお……あぶねぇ……!」


 リュナは倒れなかったことが嬉しかったのか、

 「きゃう」と小さく笑い声を上げた。


 カイは胸を張る。


 「へへっ、まもってあげたぞ!」


 その瞬間――

 廊下の奥から、氷柱のような声が飛んできた。


 「……いま、“守る”と聞こえたが?」


 レイヴンである。


 ロイが背後でため息をついていた。


 「旦那様、お子様です。落ち着いてください」


 しかしレイヴンは娘に触れているカイを凝視している。


 「……その子は、リュナに怪我をさせていないだろうな?」


 カイは慌てて立ち上がり、リュナをそっとマーラに渡した。


 「ち、ちがうよ! たおれそうだったから、ただ……!」


 リュナはレイヴンの声にびくっとし、

 「ふぇ……」と泣きそうに眉を寄せた。


 カイはあわててリュナの手を握る。


 「ごめんね! こわかった!? ぼく、わるいやつじゃないよ!」


 リュナはその手の温かさに安心したのか、涙をひっこめると、

 カイの指をぎゅっと握り返した。


 レイヴンは複雑な顔をしつつ、少しだけ肩を落とす。


 「……リュナが泣いていないのならいい」


 カイが小声でマーラに聞く。


 「……ねえ、ばあちゃん。

 このひと、ぼく、きらわれてる?」


 「大丈夫、大人はみんな赤ちゃんに敏感なんだよ」


 マーラの説明に、カイは納得したようにうなずいた。

 そして、もう一度リュナを見つめる。


 「……また、きてもいい?」


 リュナは手をぱたぱたさせる。それは彼女なりの「いいよ」の仕草だった。


 カイは嬉しそうに笑った。


 「じゃあ、またね! リュナちゃん!」


 こうして――

 リュナとカイの初めての出会いは、

 小さな笛と、小さな“守ったよ!”から始まった。

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