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パパは超絶心配症

 その日の昼下がり、リュナは工房の裏庭で日向ぼっこをしていた。

 穏やかな光の中で、ロイとマーラがつき添っている。


 ロイが小さな木の積み木を差し出す。


 「ほら、リュナ嬢。これは“くまさん”ですよ」


 積み木には動物の絵が彫られている。

 リュナは興味深そうに、指先でつん、と触れた。


 「あら、今日はよく手が動くねえ」

 マーラが笑って、リュナの髪を優しく撫でる。


 空気は平和そのもの。

 ……だったのだが。


 ガラッ!!


 玄関の扉が勢いよく開く音が響き、

 レイヴンが物々しい表情で姿を現した。


 「ロイ! マーラ! リュナはどこだ!?」


 ロイとマーラは顔を見合わせる。


 「旦那様……工房にいらしたはずでは?」

 「い、いま帰ってきたところで……」


 レイヴンはその場に似つかわしくないほど緊迫した顔つきで駆け寄ってきた。


 「リュナぁぁぁ!!」


 そして、娘の姿を見るなり両手を広げて抱き上げようと――


 「書類、書類が落ちてますってば!」

 

「旦那様、それ商談用の印璽ですよ! 踏まないで!!」


 マーラとロイが慌てて注意するが、

 レイヴンはそれどころではなかった。


 「この子が! この子が泣いたと聞いた!」


 ロイはおそるおそる答えた。


 「い、いえ、泣いておりませんが……」


 「え?」


 レイヴンは固まった。


 マーラが腕組みして呆れ顔で言う。


 レイヴンはリュナを覗き込む。


 リュナは小さな口で「きゃっ」と笑った。

 積み木遊びが楽しくて仕方がないらしい。


 レイヴンは胸を押さえた。


 「……生きててよかった」


 「いや旦那様、死にませんよ。この子は元気いっぱいですからね?」

 マーラが呆れ半分、心配半分の声をかける。


 レイヴンは真剣そのものの表情で言った。


 「今日から敷地に結界を張る」


 「は?」


 「魔物避けだ」 


 「この辺りは安全な町ですよ? 魔物なんて百年に一度です」


 「万が一がある!」


 ロイが困った顔できょとんとする。


 「では旦那様……町中の子供も皆、魔物避け結界が必要に……?」


 「それは……うむ……」


 レイヴンは言葉に詰まり、

 しかしすぐに方向転換した。


 「まずはこの家からだ」


 ――もう、この父親はだめかもしれない。


 マーラが額を押さえ、ロイは苦笑するしかない。


◆ 


 その日の夜。


 フェルシアが夕食を終えて戻ると、

 家の庭いっぱいに白い紐と札が貼られ、

 なんだかもう“儀式場”のような雰囲気になっていた。


 「……レイヴン?」


 「安全対策だ」


 「……娘を守りたい気持ちはわかるけれど」


 「フェルシア。リュナはまだ弱い。泣き声一つで駆けつけねば」


 フェルシアは小さく笑って夫の肩を叩いた。


 「いいのよ。あなたが一生懸命なのは知ってるわ」

 「……うむ」


 慰められたレイヴンは、娘を抱き上げながら静かに言った。


 「リュナ。父はお前を全力で守る。……たとえ私が過剰と言われようともな」


 ロイとマーラは揃ってため息をついたが、

 リュナだけは安心したように父の胸に顔をうずめた。


 ――過保護でも、愛してくれるなら嬉しいわ。


 そう思いながら、眠りへ落ちていった。

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