ハローニューワールド
犬の間で無償の愛で、それに応えたい。答えなきゃって思っていつも彼女といます。
光はやさしく、あたたかかった。
なずなはその中心で、何もかもがふわりと軽くなるのを感じていた。痛みも、疲れも、老いた体の重さも、すべてが溶けていく。
――あぁ、月の光って、こんなにも優しかったのかしら。
胸の奥に広がる不思議な安心感に身を委ねると、女神フェンリルの声が、形を持たないまま心へ直接届く。
「なずな。あなたの旅路は、ここから始まります。
あなたが望んだように――人の形で。」
光に包まれた世界が、ゆっくりと揺れ動いた。
なずなの小さな体はふっと浮かび、その輪郭が解けていく。犬としての四肢も、老いて細くなった体も、ひとつずつ光へと変わりながら。
――さようなら、私の体。たくさん働いてくれてありがとう。
最後に残ったのは、心。
家族を愛した、温かい気持ちだけだった。
その心が光の流れに乗って運ばれると、遠くで女神が小さく告げる。
「あなたは星影の国〈アステレア〉へと生まれ落ちます。
魔法が風のように流れ、人々が月を敬い、知識と技を尊ぶ世界です。
あなたにとって、きっと居心地の良い場所でしょう。」
どこか楽しげな響きだった。
「それから……あなたが望んだ“駆け回りたい”“つくりたい”“知りたい”という願い。
その想いに応じて、スキルも授けましょう。」
光が一度大きく脈動した。
「《月華の脚》
――疲れを知らず、月の加護を受けて軽やかに走る力。
《創紡ぎの手》
――触れた素材に命を吹き込み、自在に形をつくる力。
《書見の慧》
――読んだもの、見たもの、聞いたものを深く理解し、忘れない力。」
それは、まるで夏美と正史、そして琢磨、三人の想いがそのまま形になったギフトのようだった。
なずなは嬉しくて、嬉しくて光に溶けたはずの目から涙が溢れるのをかんじた。
「あなたの新しい人生が、どうか幸福で満たされますように。
そして……記憶を取り戻すその日、あなたが再び家族を想い、愛を思い出せますように。」
女神の声は、そこでほんの少しだけ震えた。
別れを惜しむ、優しい揺らぎだった。
――女神様、ありがとう。
――私、きっと……幸せになります。
なずなの心は光と同化し、落ちていく。
まるで柔らかい胎内へと戻るように、光がだんだんと暖かく、狭く、包み込むような感触へ変わっていった。
まぶたがあることを思い出したかのように視界が閉じ、
遠くで、赤ん坊の泣き声が――
ひとつ。
誕生の音が、世界に響いた。




