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さよなら現世また来て来世

よくぞ祈りました、なずな――。


 光そのものが語りかけてくるような、慈愛に満ちた声だった。

月の光が優しく揺れ、小さな体を包み込む。


 ――あなたは、どなた?


「私は月の女神フェンリル。狼や犬族の守護女神でもあるわね。」


 ――はじめまして女神様、こんな、横たわった姿でごめんなさい。もう、力が出なくて。


女神は優しくふふっと笑うと、そっとなずなを抱き上げた。


「気にしなくていいのよ、あなたは14年という月日を井上家の人々と過ごし、成長し、愛した。お疲れ様。」


なずなは安堵した。自分の犬生は素晴らしいもので、女神にすら認めてもらえた。間違いはなかったと。


 ――女神様、私はもう天国に行くのでしょうか?


女神はまた優しく微笑む。


「いいえ、なずな。あなたには私の世界へ転生してもらいます。そこであなたの思う人生を送って欲しいのです。」


転生。

よく聞く単語になずなは、心躍った。夏美が好んで見ていたアニメによくある話だ。悪役令嬢になったり、英雄になったり、誰かの番になったり、聖女になったり。


 ――あらら、すごいわね!私転生できるのね?それは、犬として?それとも何か別の種族かしら?できたら、穏やかに過ごしたいので悪役令嬢や勇者は嫌ね。ああ、でもそこから知識でつえー?というの?したらいいのかしら?


動かせない手足の代わりになずなは、ふんふんと鼻息を荒くした。


「ふふ、なんでもいいのよ。あなたの望むままよ。」


なずなは、さっき願ったことを思い出す。叶うなら、人として生きてみたい。疲れない体で駆け回りたい。誰かを幸せにするものづくりをしたい。沢山本を読んで知識をつけたい。

そっと女神と視線を合わせる。女神は小さく頷いた。


「分かっています。あなたの望むまま、あなたの思うままに楽しみなさい。」


 ――どうして、私は転生できるのかしら?

何か特別なことがあるのでしょうか?


「あなたの家族です。あなたの家族が死期の近いあなたのため、各々に願ったのです。

夏美はその想像力であなたの異世界転生を望み、楽しく愛に満ちた人生を願いました。

正史は、あなたの賢さを愛し、来世があるなら人として充実した人生を送って欲しいと。

琢磨はあなたとずっと一緒にいたいと願いました。あなたとまた沢山走り回りたいと毎夜寝る前に月に祈ったのです。」


なずなの大きな目から涙が溢れた。


 ――女神様、私はこんなにも愛されて本当に幸せでした。

なんと夏美らしいオタク的発想の願いだろう、外に出さなくてもその仕草で愛を示してくれた正史。私の大切な琢磨。


全てが愛しくて離れ難い。しかし、この体はもう終わろうとしている。この愛すべき家族を残していかなくてはならないもどかしさが、犬の身であるなずなにも理解できる。


それほどに、家族に愛されたのだ。


「さぁ、なずな。月と狼、犬族の守護女神である私の世界で人としての生を楽しみなさい。

あなたにはフェンリルの加護とあなたの家族の加護。そして、スキルとしてあなたが願ったものを授けましょう。」


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